最新記事

核開発問題

イランと暗闘を繰り広げる意外な国

イラン核技術者の暗殺や核施設へのハッカー攻撃などはすべてイスラエルの仕業と思われてきたが

2012年12月5日(水)14時42分
マイケル・モラン

格好のスパイ アゼルバイジャン人はイラン国内にも住んでいる(写真はバクー) David Mdzinarishvili-Reuters

 核開発疑惑をめぐって、イランと水面下で攻防を続けるイスラエルとアメリカ。その対立の構図に、新たな国が加わっている。イランの北隣に位置するアゼルバイジャンだ。

 この数年、イランでは核技術者が暗殺される事件が続発し、核施設のサーバーにコンピューターウイルスが仕掛けられることもあった。イラン当局はこれまで、こうした攻撃はイスラエルの対外工作機関モサドの仕業だと非難してきたが、最近になってその背景にアゼルバイジャンの協力があったと結論付けた。

 一方で、イランもこうした「影の戦争」を仕掛けている。イランの諜報機関は1月、アゼルバイジャン人(アゼリー人)を雇い、駐アゼルバイジャンのイスラエル大使や首都バクーの複数の標的を攻撃する許可を出した。結局、アゼルバイジャン当局が計画を察知し、容疑者3人を逮捕した。

 アメリカやイスラエル、アゼルバイジャン、イランはそれぞれ相手側を非難して、自らの関与を否定している。アゼルバイジャンは、対イランのいかなる活動にも関与していないと主張し、イスラエルがイラン攻撃に備えてアゼルバイジャンの空軍基地を使おうと検討しているという報道も否定した。

 アメリカは、ソ連から独立したアゼルバイジャンをずっと支援してきた。近年ではエネルギー生産量の減少や汚職、アリエフ政権が独裁色を強めていることに不満を募らせているものの、エネルギー資源が豊富なカスピ海沿岸地域(そしてイランの隣国)というアゼルバイジャンの地理的条件を考えて強気に出られずにいる。

 イランにとって厄介なのは、主にアゼルバイジャンとの国境地帯や首都テヘランに暮らす国内最大の少数民族、アゼリー人の問題だ。国内で比較的自由に、目立つことなく動ける彼らの中には、反体制派が生まれている。対イラン政府の隠密行動を取れる国内勢力の候補として、アゼリー人は極めて魅力的な存在だと、アメリカの元諜報当局者は言う。

「アメリカ、イスラエルとイランの間で起こっていることの大部分は闇の中だ」と、元CIA職員でクリントン政権の元高官(匿名希望)は言う。「イランとの戦争は『いつ』の問題ではなく、『どこで』『どのように』起こるかの問題になっている。定義の仕方によっては、既に始まっている」


From GlobalPost.com特約

[2012年11月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中