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公共放送トラブル続きのBBCその深過ぎる病根
質の高いドキュメンタリーや教養番組で知られるBBCを見舞う信じ難い醜聞の数々
公共性はどこへ? 世界最高の報道機関との呼び声も高いが国内番組の凋落はひどい Olivia Harris-Reuters
往年の名物司会者による性犯罪とその隠蔽疑惑、さらにその騒動が収まらないうちに起きた大誤報──BBC(英国放送協会)が相次ぐトラブルに見舞われている。
一連の騒動の幕引きを図る形でジョージ・エントウィッスル会長が辞任したが、BBCの問題はもっと深いところにある。
最大の病巣は、イギリス国内向けのチャンネルだ。まるでアメリカの娯楽情報番組を見ているのかと錯覚するほど、センセーショナルなニュースであふれている(BBCワールドなどの国際放送は今も輝かしいレベルを維持している)。
行方不明になった少女の話題を何日も(時には何週間も)興味本位に取り上げたかと思えば、有名人のゴシップに大騒ぎ。視聴率や広告収入を得るのに必死な民放チャンネルのように、安っぽい演出のニュースのオンパレードだ。
BBCの経営は受信料で成り立っている。だから外国の国営放送局によく見られる政府の介入は拒否できるし、広告主の顔色をうかがう必要もない。
BBCの抱える問題の多くは自ら招いたものだ。例えば経営のスリム化が叫ばれたとき、高給取りの経営陣や理事の数や報酬を減らすのではなく、現場の記者や番組の予算を大幅に削減した。そのツケがいま回ってきた。エントウィッスルを辞任に追い込んだ誤報がいい例だ。
誤報を流したニュース解説番組『ニュースナイト』は今月初め、かつて児童施設にいた頃、ある政治家(名前は伏せられた)に性的いたずらを受けたとする男性の証言を紹介。後日この男性は「人違いだった」と証言を撤回。しかしそのときまでに、ネットで政治家の名前は特定されてしまっていた。
このコーナーを制作したのは民間のプロダクションだった。おそらく経費削減の一環として外注され、その結果が粗悪なジャーナリズム、というわけだ。それがそのまま垂れ流されたということは、BBCという組織にチェック機能が欠如している証拠でもある。
皮肉にも、BBC国内放送の「アメリカ化」が進む一方で、アメリカの3大ネットワークの一角、CBSのニュース部門では昔のBBCのような「堅いニュース」への回帰が進んでいる。経験豊かな特派員の数はまだ足りないが、現場の士気はこれまでになく上がっているという。
[2012年11月28日号掲載]