最新記事

サイエンス

目からウロコの感情と性格の科学

2012年4月27日(金)22時21分
リチャード・デービッドソン(ウィスコンシン大学マディソン校教授) シャロン・ベグリー(科学ジャーナリスト)

イメージ練習に効果あり

 MRI(磁気共鳴映像法)のおかげで、別の要素が感情スタイルに影響を与えることも分かった。前頭前皮質と扁桃体を結ぶ神経細胞の軸索が多いほど、人間は立ち直りが早い。他方、軸索が少ないほど、つまり前頭前皮質と扁桃体を結ぶルートが少ないほど、立ち直りは遅い。

 言い換えると、前頭前皮質の活動と扁桃体に信号を送る経路の数によって、その人がどれだけ早く逆境から立ち直れるかが決まる。この2つのメカニズムを通じて、人間の「考える脳」は「感情的な」自己を落ち着かせて、計画を立てたり合理的な行動を取る。これが「立ち直り」の基本的な仕組みだ。

 でも私の前頭前皮質と扁桃体はしっかりつながっていなくて、嫌なことがあるたびにノイローゼ気味になってしまうに違いない──そんな不安を抱く人はいるだろう。確かに神経学者は、成人になると脳は形も機能も固定して変化しないと考えてきた。だがそれは違うことが、今では分かっている。

 むしろ脳には神経可塑性という性質がある。外からの刺激によって、構造的・機能的な変化を起こすことができるのだ。例えば名バイオリニストの脳は、指の動きをつかさどる領域が大きくて活発に働く。ロンドンのタクシー運転手の脳は、空間学習能力をつかさどる海馬が発達している。

 外からの刺激だけでなく、内的なメッセージ(自分の考えや意思)によって脳に変化を起こすこともできる。ハーバード大学医学大学院のアルバロ・パスクアルレオネ教授が率いるチームは、このことを次のような実験で証明した。

 被験者は1週間、片手だけで弾ける曲をピアノで練習する様子を思い描く。すると右手の指の動きをつかさどる脳の運動皮質の領域が拡大した。つまり考えるだけで、特定の機能をつかさどる運動皮質を大きくすることができたのだ。
瞑想で脳を活性化せよ

 感情スタイルについても、脳の神経構造を変えられることが分かっている。どのくらいの変化を起こせるかは分からないが、脳の活動パターンに影響を与えるためのメンタルトレーニングをすれば、一定の効果が得られることが分かっている。

 瞑想や認知行動療法といったメンタルトレーニングをすると、より幅広い社会的信号に視野を開き、自分の気持ちと肉体的感覚にもよく目を向け、未来について楽観した姿勢を保ち、感情的なダメージから立ち直る力を高めることができる。

 いつも先のことを悲観しがちな性格? それならセラピーを受けて、もっとおおらかで陽気になれる方法に着目する訓練をしよう。

自己認識が強くて、いろいろなことを考え過ぎる? それなら一瞬一瞬の自分の気持ちや考えをありのままに観察する練習をしよう。

 こうしたトレーニングは「気付きの瞑想」と呼ばれ、感情スタイルを変える最も効果的な方法の1つだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中