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百科事典「ブリタニカと知識人」蜜月の終わり
244年の歴史に幕を下ろし、書籍版から電子版に全面移行すると決めたブリタニカだが
時代遅れ? 無料のウィキペディアに対抗しながら高い教養レベルを保てるのか Lucas Jackson-Reuters
ブリタニカ百科事典全32巻セットが発売されたのは一昨年のこと。その最後の1セットが店頭で売り切れたとき、244年に及ぶブリタニカの歴史に幕が下ろされることになる。
米エンサイクロペディア・ブリタニカ社は13日、書籍版ブリタニカ百科事典(英語版)の出版を打ち切ると発表した。理由は簡単だ。ネットの普及で、もはや紙の書籍は不要となりつつある――いや、この際だからはっきり言おう。ブリタニカはオンライン百科事典のウィキペディアに敗れたのだ。「ブリタニカ」なる百科事典がなぜシカゴにある同社から発売されることになったのかを調べるとき、たいていの人が使うのはウィキペディア。検索した結果、判明したその歴史はざっとこんな感じだ。
ブリタニカ百科事典の初版は1768年、スコットランドのエジンバラで発行された。哲学者のアダム・スミスやデービッド・ヒュームといった知識人が主導するスコットランド啓蒙主義が英語圏の知識人の間で大きな権勢を奮っていた頃だ。
19世紀から20世紀へと時代が移り変わるころ、ブリタニカ百科事典の版権は経営難に落ちいたスコットランドの出版社からアメリカの起業家の手に移った。その後、シカゴの百貨店大手でカタログ通信販売で知られるシアーズ・ローバック社が買収し、1960年代に哲学者モーティマー・アドラーがブリタニカ百科事典15版の編集長に就任。96年、スイスの実業家ヤコブ・サフラが版権を買収した。
デジタル版は生き残れるのか?
これだけ無料の情報がこれだけ氾濫する世界で、1セット=1395ドル(約11万7000円)という書籍には手を出しにくい。ブリタニカは今後、電子版に全面的に移行する。ホルへ・カウス社長は、ブリタニカ百科事典の重要性についてこう語る。「この百科事典が時代に即して息づいているのは、編集作業を通じて学術的な知識をできるだけ多くの人々の知的欲求に応える形にしているからだ」
それはネット上ならもっと手早くできる。ネットなら紙を使わないから環境にも優しい。出版社としては、経費の節減や新たな利益開拓にもつなげることができる。
電子書籍端末キンドルにフルセットをダウンロードして、本当にそれを使いこなす人がどれだけいるかは疑問だが。
(GlobalPost.com特約)