中国に現る!最強の恐竜ハンター
化石の発見ラッシュは、徐の国際的名声を高める役割も果たした。出身はカザフスタンとの国境に近い新疆ウイグル自治区のイリ・カザフ自治州。北京大学に入学する際、古生物学科に振り分けられたが、恐竜についてはまったく無知だった。
「入学許可証を見せた高校の先生も古生物学を知らなかった」と、徐は言う。「先生は『たぶん新しい学科で、ハイテクかなんかの学問だろう』と言った」。徐はコンピューターを学ぶのだろうと思って大学に向かった。
彼は古生物学をなかなか好きになれなかった。大学院への進学を希望したのは、北京に住み続けるための方便だった。ようやく興味を持てるようになったのは、古生物学科に奇妙な化石が集まるようになってからだ。
彼はトリケラトプスの仲間である小型の角竜の化石と出合ったときのことを、今もよく覚えている。「その瞬間、自分は古生物学者になるために生まれてきたのだと思った」
研究室は化石でいっぱい
徐はレベルの高い国際的な学術誌に論文を発表するために英語を学んだ。「90年代には、中国でも重要な化石がいくつか発見されていた。しかし、世界的な注目を集めることはなかった。論文はすべて、中国の学術誌に発表されただけだったからだ」
言語の壁だけではなく、研究スタイルの違いも大きい。中国では専門家同士の議論や相互批判、検証の伝統がない。世界の潮流に乗り遅れた理論や研究手法も目に付く。
中国で初めて恐竜が発見されたのは1920年代。だが、その後の数十年間は、少数の専門家がまともな支援体制もないまま、細々と研究を続けていた。
今は国際協力の枠組みが整い、幅広く資金を集められるようになった。「以前は中国で得られる補助金は年間1〜2件だけだった。今は9〜10件になった」と、徐は言う。
中国の急速な経済成長も古生物学の発展を後押しした。建築工事の増加で化石を発見する機会が増えたのだ。徐が大学院生だった頃、研究に使える化石の量はごくわずかで、状態のいい標本はベテランの学者が独占するケースも多かった。
だが現在、徐が所属する中国科学院古脊椎動物古人類学研究所の研究室は化石でいっぱいだ。「ティラノサウルスの化石を徐のオフィスで見たんだ」と、ホーンは言う。「『私は忙し過ぎる。もしあなたがこれを研究したければ......』と彼は言った」。ホーンは即座にイエスと答えた。
古生物学者は20年以上前から諸城市に化石が出る場所があることを知っていたが、その規模の大きさに気付いたのは08年に巨大な化石群を偶然に見つけてからだ。それ以来、深さ300メートルの発掘溝からは、ホーンが研究した体重6トンのティラノサウルスの近縁種(白亜紀後期のチューチョンティラヌス・マグヌス)をはじめ、新種の恐竜9種が発見されている。