最新記事

人権

収容所国家中国の深い闇

2011年8月3日(水)12時56分
メリンダ・リウ(北京支局長)、アイザック・ストーン・フィッシュ(北京)

 艾のように国際的な注目を浴びる政治犯はほんのひと握り。大半は、人知れず刑務所や収容所や「ヤミ刑務所」(不潔なホテルや精神科病棟)に放り込まれている。弁護士に相談する機会も、医師の治療を受ける機会もほとんど与えられず、外部の世界との接触もほとんど許されていない。拘束中に死亡するケースも珍しくない。

 北京に拠点を置く人権擁護団体「人権衛士緊急救援協会」によると、当局は拘束者の死因について、「顔を洗っていて死んだ」とか「目隠し鬼ごっこをしていて死んだ」などと、とうてい信じ難い説明をしている。

「胸のにきびをつぶした」ことが死因とされた男性は、検死の結果、鋭利な物体で心臓を貫かれていたことが分かった。内モンゴル自治区の収容所で死んだ女性は、子宮外妊娠が死因とされたが、遺族が遺体を見たところ、性的暴行を受けた形跡があったという。「お湯を飲んで」死んだとされた男性は、親戚によれば睾丸をつぶされて、両乳首をそぎ落とされていた。

 釈放された元収容者が被害を訴えることもままならない。捜査を行うのは、収容施設を運営する機関と同じだからだ。

 ジャーナリストの斉崇淮(チー・チョンホアイ)は、役人による汚職や違法行為を告発した後、恐喝罪などに問われて4年の懲役を言い渡された。その刑期満了を2週間前に控えた今年6月初め、今度は恐喝罪に公金横領の罪を加えて新たに8年間の服役を言い渡された。

 斉の妻は悪夢にさいなまれている。「看守が『鬼ごっこ』と称して、服役者に他の服役者を暴行させている。そして誰かが死ぬまで殴られる」と彼女は言う。「夫は病気がちなジャーナリストにすぎない。そんな暴行にはとても耐えられない」

 89年に民主化運動が盛り上がったとき、軍が天安門広場に陣取ったデモ隊に発砲し、数百人が死亡し数千人が拘束された。しかしそれ以降は、今ほど激しい政治的抑圧はなかったし、治安当局が傍若無人な行動を取ることもなかった。

 4月には北京と内モンゴルで、無認可キリスト教会の信徒と牧師約1000人が自宅軟禁下に置かれた。「状況はここ10年で最悪だ」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員フェイリム・カインは語る。「政府はなりふり構わぬ取り締まりを進めている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中