最新記事

イギリス

キャメロンはマードックと共倒れしない

盗聴疑惑に揺れるメディア帝国との「不適切な関係」を下院で追及され、政治生命の危機に立たされたキャメロンが見せた意外なしたたかさ

2011年7月25日(月)19時55分
マイケル・ゴールドファーブ

集中砲火 下院の審議で136件もの質問を浴びせられたキャメロンだが、断固たる口調で釈明を繰り返した Suzanne Plunkett-Reuters

 先週初め、デービッド・キャメロン英首相を取り巻く状況はお先真っ暗だった。

 ルパート・マードック率いるメディア帝国ニューズ・コーポレーションの傘下にある英タブロイド紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」による電話盗聴スキャンダルはとどまるところを知らず、大物関係者の失脚が相次いでいる。

 7月17日にはロンドン警視庁のトップ、ポール・スティーブンソン警視総監が、同紙との癒着や、数年前に発覚していた盗聴疑惑の捜査を適切に進めなかった責任を取って辞任。翌日にはジョン・イェーツ警視監も辞任した。

 疑惑の矛先は政界の中枢にも向けられている。盗聴行為がはびこっていた時期にニューズ・オブ・ザ・ワールドの編集長を務めていたアンディ・コールソンは、今年1月までキャメロン首相の報道官を担当していた人物。事件の捜査がなかなか進展しなかったのは、そのせいだったのではないか。

タブロイド出身者を抜擢した真の理由

 キャメロンはなぜ、コールソンを報道官に雇ったのか。高収益が見込める英衛星放送BスカイBの完全子会社化を目論んでいたマードックと、ニューズ・オブ・ザ・ワールドの発行元ニューズ・インターナショナルのCEOだったレベッカ・ブルックスは、キャメロンにどれほどの影響力を持っていたのか。

 謎を解くヒントは、キャメロンの思わぬひと言に隠れている。彼は保守党党首に選ばれた直後、「私はブレアの後継者だ」と語っていた。キャメロンは労働党のトニー・ブレア元首相の手法をいろいろな面で真似ているが、報道担当の任命もその1つだ。ブレアは、かつてタブロイド紙編集長として名を馳せたアラステア・キャンベルを報道戦略局長に抜擢した。

 ブレアもキャメロンもエリート階級の出身。だから、一般庶民にアピールする必要がある報道担当にタブロイド的な感性をもつ人物を登用するのは有益だ。さらに、ブレアとキャメロンには「編集者のネットワークを利用できるという思惑もあっただろう」と、メディア論に詳しいジャーナリスト、ロイ・グリーンスレードは指摘する。「政権に批判を集中したとき、彼らなら誰に連絡すればいいか分かっている」

 キャメロンは20日、一連の疑惑に関する下院の集中審議に出席し、コールソンとの関係について2時間半に渡って説明した。議員からの質問は136件に達したと言われているが、それでもキャメロンはリラックスした態度を崩さず、断固たる口調で釈明を繰り返した。

 これを機にキャメロンは、少なくとも自らの基盤である保守党内での窮地は脱しつつあるようだ。キャメロンはこの後、党内の一般議員らと会談し、険悪だったムードは一転して和やかなものになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン

ワールド

中国のハッカー、米国との衝突に備える=米サイバー当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中