米ジャーナリストはなぜ沈黙するのか
瑣末な議論ばかりに終始
ほかの国のメディアは、もっと積極的にウィキリークスを擁護している場合が多い。アサンジの祖国オーストラリアでは、主要紙のほとんどの編集者がジュリア・ギラード首相宛ての書簡に署名し、オーストラリアもしくはアメリカでのアサンジ訴追に反対する意思を表明した。
「ウィキリークスの活動は......メディアがずっと行ってきた活動と変わらない。政府が秘密にしておきたい資料を白日の下にさらすことを目的にしている」と、この書簡は記している。
「リーク情報を公表したとの理由でメディア組織を訴追することはアメリカで過去に例がなく、言論の自由を保障するアメリカ合衆国憲法修正第1条に違反する。また(訴追がなされれば)オーストラリアにおいても、メディア組織が政府にとって都合の悪い問題を報道することに重大な制限が及ぶ」
注目すべきなのは、この書簡がウィキリークスを「メディア組織」と呼んでいることだ。ウィキリークスは伝統的な意味での新聞や雑誌ではないし、ラジオ局やテレビ局でもない。しかし、デジタルメディアの時代にニュース情報を収集・発表するのは伝統的なメディアだけではない。外交公電の暴露が報道の自由の対象になるかどうかは、アサンジをジャーナリストと認めるかどうかとは別の問題だ。
「ウィキリークスはジャーナリズムか、アサンジはジャーナリストかというさまつな議論が盛んになされているが」と、コロンビア大学ジャーナリズム・トラウマ・ダートセンターのブルース・シャピロ所長は言う。「私に言わせれば、それは問題の本質と関係ない。問題の本質は、ウィキリークスとアサンジが情報を発信していることだ」
法律の専門家によれば、米政府は憲法修正第1条違反を避けるために、国家機密の公表ではなく、マニング上等兵が機密を入手するのを後押ししたことを理由にアサンジを罪に問おうとする可能性がある。しかし政府がこのような行動を取れば、すぐに歯止めが利かなくなり、情報提供者に働き掛けたことを理由に調査報道ジャーナリストが訴追されるようになる。
アメリカのジャーナリスト養成専門大学院で指折りの権威があると見なされているコロンビア大学ジャーナリズム大学院の教員19人(全教員の半数をわずかに上回る人数だ)はオバマ政権に宛てた書簡に署名し、ウィキリークスの活動は憲法修正第1条の保護対象であり、訴追を行うべきでないと訴えた。アメリカのジャーナリズム大学院の教授たちがこの問題に関して発表した声明は、これまでのところこの1件だけだ。
「主要メディアはアサンジを十分に擁護していない」と、人権擁護団体「憲法上の権利センター」のマイケル・ラトナー所長は言う。アサンジが刑事告発されれば、政府の秘密情報を報道しようとするジャーナリストたちを萎縮させてしまうと、ラトナーは警告する。
実際、訴追推進派のムケージー前司法長官はそういう萎縮効果を期待しているように聞こえる。ムケージーはFOXニュースに対し、こう述べている。「ニューヨーク・タイムズはこのような行動を取る前に、もっと躊躇すべきだったのだろう」