ベルルスコーニ「裸の王様」の最期
絶望的な水準の公的債務
ベルルスコーニにとってさらに頭が痛いのは、カトリック教会からの批判かもしれない。長年ベルルスコーニの問題行動に目をつぶってきたように見えるカトリック教会だが、今回のスキャンダルを受け、カトリック系の日刊紙アッベニーレが「節度と品格は公職に就く者の最低限の義務」と注文を付けた。
ビジネス界との関係も危うくなっている。政治家になる前、「メディア王」として君臨していたベルルスコーニは中小企業を支持基盤としている。だが起業家や実業家で組織される有力団体のイタリア工業連盟はベルルスコーニに背を向け始めた。
政治の前進を妨げているのは首相のセックス問題だけではない。イタリア政府の機能不全は目に余る。前経済発展相のクラウディオ・スカイオーラが汚職スキャンダルで辞任したのは5月。だがその後任が指名されたのはその153日後だった。
過去60年間で最悪の景気後退を脱したとはいえ、イタリア経済の回復規模はわずかだ。09年の経済成長率はマイナス5%。今年は1・2%の成長率が予測されているものの、さらなる成長はほとんど見込めない。
ジュリオ・トレモンティ経済・財務相の持論によると、イタリア経済はドイツの景気が回復すれば改善するはずだった。しかし10年第2四半期、ドイツが前期比で2.2%のGDP(国内総生産)成長率を記録したのに対し、イタリアの成長率は0.4%にすぎなかった。
債務も絶望的な水準に膨れ上がっている。金融大手HSBCの予測によれば、EU(欧州連合)各国が11月中に発行する国債(総額710億ユーロ)のうち、イタリアの発行額は3分の1以上を占める。ユーロ圏内3位の経済大国であるイタリアは域内最大の財政赤字国。公的債務は対GDP比で120%に上る。
イタリアは来年、2250億ユーロを超える国債を発行する見込みだ。その額は財政破綻が懸念されるスペイン、ポルトガル、アイルランド、ギリシャの国債発行額の合計より多い。投資家からも、これら4カ国と同じくらい厳しい目を向けられている。
政治の麻痺状態の末に
市場はイタリアの政治的危機の解消を「待っている」と、ポツダム大学(ドイツ)のエネルギー政策研究者ステファノ・カセルタノは主張する。米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)のイタリアに対する格付けは「Aプラス」のままだが、同社は先頃「イタリアの政治不安が(財政目標達成に向けた)計画の実行を妨げることがあれば、格下げ圧力にさらされる」と警告した。
イタリアの行く手に待つ巨大な問題の数々は、断固とした政治的・経済的決断なしには解決できない。1つ間違えば、救済の見込みはほぼなくなる。イタリアの名目債務は約1兆8000億ユーロ。5月に起きたギリシャ債務危機を受け、EUが設立に合意した7500億ユーロ規模の支援基金をもってしても、どうにもならない。
EUが加盟国に対し、債務残高の対GDP比を60%以下とするよう義務付けた場合、イタリアは大なたを振るうことを迫られる。国家の大きな目標を掲げ、実現を目指すのは政治家の役目だ。にもかかわらず、ベルルスコーニも議会もそんな姿勢はかけらも見せていない。