最新記事

イタリア

ベルルスコーニ「裸の王様」の最期

政府債務が危機レベルに近づくなか、肝心の首相は「ブンガブンガ」セックス・スキャンダルできりきり舞い

2011年1月25日(火)14時41分
ヤーコポ・バリガッツィ(ミラノ)

自業自得 「男殺しのルビー」に政治家生命も奪われそう Tony Gentile-Reuters

 イタリアでは時に、この国が崩壊に向かっている現実と、そうなった理由を思い知らせる事件が起きる。

 11月6日には、古代ローマの都市遺跡で世界遺産であるポンペイで「剣闘士たちの家」と呼ばれる建物が倒壊した。折からの豪雨と、劣化していたにもかかわらず補修せずに放置していたことが原因だった。悪いニュースはまだ続いた。遺跡などの管理を統括するサンドロ・ボンディ文化相が今回の「不祥事」の責任を取って辞任するかと問われ、こう答えたのだ。責任は自分にはない──。

 これぞイタリア式政治だ。この国の政治家は責任を取らず、恥を恥とも思わず、危機に瀕する国家の現状も意に介さない。

 イタリア経済は今や火山の噴火で埋もれたポンペイ並みに世界から取り残されている。過去20年間の成長率は実質ゼロ。その責めを負う者は1人もいない。

 とはいえ、政界では変化が近づいているかもしれない。汚職容疑をはじめ数々の疑惑を奇跡的に乗り切ってきたシルビオ・ベルルスコーニ首相(74)の政治手腕はここへきて突然、衰えだしたようだ。確かなのは重要な支持者を失い始めていること。最大の理由は、またも持ち上がったセックススキャンダルだ。

 報道によればベルルスコーニは2月、リビアの最高指導者ムアマル・カダフィから伝授されたという「ブンガブンガ」と呼ばれる儀式に参加した。その実態は裸の女性たちと戯れる乱交パーティー。問題はその中に、当時未成年だったモロッコ系移民のベリーダンサー、通称「男殺しのルビー」がいたことだ(年齢を偽って参加しており、ベルルスコーニと性交渉はなかったと本人は主張)。

 その後ルビーが窃盗容疑で逮捕された際、ベルルスコーニは自ら警察に釈放を働き掛けた。彼女はエジプト大統領の姪だから、との理由だったが、在イタリア・エジプト大使館は「問題の女性は大統領の姪ではない」との声明を発表した。

 淫らでばかばかしい事件ではあるものの、この数年間にわたって失望を募らせてきたベルルスコーニの支持者にとっては、離反の格好の口実になった。ベルルスコーニのかつての盟友で、下院議長を務めるジャンフランコ・フィーニは先日、政治集会で「今のままではいられない」と発言。フィーニは既に7月末、ベルルスコーニとたもとを分かち、新党を結成していた。

 フィーニはベルルスコーニ政権の基盤を揺るがす脅威になっている。イタリア国内での報道によると、フィーニの支持に回る与党「自由国民」所属の議員は47人、地方の公職者は2600人に上る。フィーニの新党が野党と連携すれば、政権崩壊へ追い込むことも可能だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中