グーグル検索は国営メディアに有利?
ニュース検索で上位に表示されるサイトのなかに、ロシアや中国など、報道の自由が制約された国の政府系メディアが多い理由
見えない真実 モスクワの抗議集会で、オレグ・カシン記者の襲撃事件の真相解明を求める市民(11月10日) Denis Sinyakov-Reuters
この前、私はビクトル・ボウトという人物のことを知りたいと思って、グーグルニュースを検索してみた。08年にタイで逮捕されて、11月16日にアメリカ当局に身柄を引き渡されたロシアの武器商人である。
検索結果(英語)の画面で一番先頭に表示されたのは、ロシアの国有通信社ロシア・ノーボスチの記事。公正な裁判を求めるロシア外相の声明を紹介した記事だった。これに続いて検索結果の上位には、CBSニュースやAFP通信など欧米の報道機関の記事と、ロシアの英語テレビ放送ロシア・トゥデイ(RT)など政府系メディアの記事が混ざっていた。
2週間前にビルマ(ミャンマー)総選挙のニュースを検索していれば、軍事政権による選挙の不正を非難するUPI通信やロサンゼルス・タイムズなどのアメリカのメディアの記事が見つかっただろう。しかしそれだけでなく、この選挙を「一歩前進」と評価する中国共産党機関紙の人民日報系英字紙グローバル・タイムズの記事も表示されたはずだ。
確かに、国際的で多様な視点のニュースを提供することがグーグルニュース開設の趣旨だ。しかしそこで紹介されている「視点」のなかには、ロシアや中国など、自由な報道が阻害されたり禁じられている国の政府系メディアの記事が少なくない。
さまざまなニュース配信主体が同等の条件で競い合える場をつくり出した結果、グーグルニュースは、専制的な政府がメッセージを発信しやすくしてしまったのか。
露骨なロシア政府寄りの報道
「ウェブのおかげで(それまでより多くの人たちに)ニュースを届けられる可能性が開けた」と、RTのマルガリータ・シモニアン編集長は私宛の電子メールで語った。
RTは5年前、ロシア・ノーボスチなどによって設立された。ロシアの対外的なイメージを改善するのが目的と見られているが、ロシア政府寄りの報道はしていないとRTは主張する。
とはいえ、RTの国際ニュース報道は親ロシア的な傾向が強いと感じる人もいる。08年にロシアとグルジアが軍事衝突した際、RTはグルジア軍部隊の「ジェノサイド(大量虐殺)」を非難したが、ロシア軍が襲撃したグルジア人の村を取材しないよう記者たちに指示したと伝えられている。
グーグルがどのようなアルゴリズムを用いて、検索結果の表示順位を決めているのかは公表されていない。報道機関は上位にニュースを表示させるため、さまざまな知恵を絞っている。RTのシモニアン編集長はどのような対策を取っているのか明かそうとしないが、ロシア関連のニュースの検索結果を見る限り、成功を収めつつあるようだ。
厳密な研究結果とは言えないものの、グーグルニュースではおおむね2次情報よりも1次情報の報道の表示順位が高いと指摘されている。そうだとすれば、専制的な国の政府系メディアが有利なのもうなづける。予算削減のせいで欧米の報道機関が現地に記者を送り込めなくなったり、イランやロシアでは欧米のジャーナリストの取材が制限されるケースが多いからだ。