「鉄の男」キャメロンの超緊縮改革
保守党は自民党を尊重し、選挙制度改革では11年に国民投票を実施すると約束した。結果次第で、2大政党に有利な現在の単純小選挙区制から比例代表並立制に変わるかもしれない。代わりに自民党は、保守党の主張する緊急の歳出削減策を支持している。
キャメロンと自民党のニック・クレッグ党首は共に43歳。裕福な家庭に育つなど共通点も多い。彼らの親密な友情は、男性の同性愛を描いた映画『ブロークバック・マウンテン』になぞらえて「ブロークバック連立内閣」とも揶揄される。
キャメロンにはサッチャーになかったものがある。政治家として周囲を不快にさせない人格だ。自信にあふれる姿は、不器用だったゴードン・ブラウン前首相の後とあって特に歓迎された。
首相官邸でかんしゃくを起こしたとか、夜遅くに閣僚におかしな電話をかけたという噂はもう聞かない。官邸関係者によると、新しいボスは正規の勤務時間を尊重し、時々自ら子供を学校まで送っていくという。
最大の変化は、キャメロンが首相の座にありながら余裕を感じさせることだ。「遠大な影響をもたらすような方策を考えていても、イデオロギー的にも偏向的にも見えない」と、元保守党調査部長で現在は調査会社ポピュラスの理事を務めるリック・ナイは言う。
皮肉なことに、キャメロンの野望はサッチャーより大きいかもしれない。彼は「倹約」以上のことをやろうとしている──国民と政府の関係そのものを改革しようというのだ。
キャメロンに言わせれば、国家の存在が大き過ぎるために、個人の責任感がむしばまれてきた。キャメロンは、個人が自分の人生に責任を持ち、周囲も手助けするような社会に戻したいと考えている。「人は責任を取る自由を与えられたら、自分で物事をやり遂げるようになって新しい活力を得るだろう」と、彼は言う。
具体的には、さまざまなことを変えて権力を分散させる。例えば薬物依存のリハビリ施設などの分野で民間部門の役割を広げ、成果主義の報酬制度を導入する。英国内の大学の学費に年間5000ドルの上限を設けるといった、政府による甘やかしも切り捨てることになるだろう。
意味のある予算削減は、最初は必ず評判が悪いものだ。ならばいっそのこと、継続的な変化を生むような改革を行えばいい。最も痛みを伴う部分が早く終われば、次の選挙までに国民が痛みを忘れる時間の余裕ができる。その頃には「大きな社会」の基礎が築かれているだろう。これなら、「鉄の女」にも異論はないはずだ。
[2010年9月29日号掲載]