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核開発イラン攻撃論者よ、頭を冷やせ
ロシアの原子炉燃料注入で「イラン攻撃」報道が過熱しているが、イランが核兵器を完成するまでには少なくともあと1年の猶予がある
疑心暗鬼 イスラエルが近くイランの核関連施設を攻撃するという憶測が広がっている(イラン中部コムにある濃縮ウラン精製施設と見られる建物の衛星写真) DigitalGlobe-Reuters
米アトランティック誌9月号は、イランの核兵器開発が「後戻りできないところ」にまで近づいているかもしれない、と報じた。筆者のジェフリー・ゴールドバーグはイスラエルが「50%以上の確率で来年7月までに」イランの核関連施設への攻撃を始めると予測している。
英タイムズ紙によれば、サウジアラビアはイスラエルに対してイランの核関連施設への攻撃のために上空を通過しても構わないと通告した。記事は「米国防筋」がサウジアラビアの上空通過許可は米国務省も承認済みだ、と語るコメントも紹介している。
しかしアメリカとヨーロッパの安全保障担当者と核拡散防止担当者は本誌に対し、イスラエルがイランを攻撃するとか米政府が攻撃を直接間接に支持していると推測することは、例え間違いではないにしても時期尚早かつ大げさだ、と語っている。
2人の米政府当局者(いずれも匿名を希望)は、オバマ政権がサウジアラビアの上空通過許可を承認したというのは間違いだと証言している。ヨーロッパの当局者も、イスラエルのイラン攻撃に関する最近の報道はここ数年流れては消え、また浮上した「噂話」のたぐいに過ぎないと指摘している。
アメリカが続けてきた闇の妨害工作
米政府当局者によると、米政府の専門家はイランが核兵器用濃縮ウランの精製施設にまだ重大な技術的問題を抱えていると見ている。ニューヨーク・タイムズ紙がこれまでに数回にわたって報じたところでは、アメリカとその同盟国はイランの核開発を遅らせるために、イランが外国から核物質を購入するルートをじゃましたり、核開発に使う電力やコンピューターシステムに遠隔操作で妨害を加える秘密工作を続けてきた。
米ニュー・リパブリック誌のウェブサイトが7月に掲載した「妨害作戦」という記事では、ユダヤ系アメリカ人の指導者が「核開発を阻止する闇の作戦」が長らくイランの核開発に対するアメリカの中心的政策だったと語っている。
アメリカの情報機関は「イランが核兵器開発を2003年に中断し、07年半ばの段階でまだ再開していない」と結論付けて議論を呼んだ07年の米国家情報評価のアップデート作業を続けている。アメリカの同盟国の情報機関は、イランが核兵器の設計や製造に関する理論的な「研究」は再開しているかもしれないが、実際の「開発」は進めていないと見ている。米国家情報評価のアップデートが長引くほど、アメリカの情報機関もこうした見方に近づいていくだろう。
「核兵器製造の最終決断はまだ」
最新の政府報告や分析を知る立場にいる2人の米政府当局者によれば、アメリカの情報機関はイランの核兵器関連の研究が進んでいるとしても、指導者たちはまだ核兵器製造の決断を下していないという見方に自信を持っているようだ。6月に放送された米ABCテレビのインタビューで、CIA(米中央情報局)のレオン・パネッタ長官はイラン指導部の核兵器開発方針について「彼らは設計作業を継続していると思う。製造に進むべきかどうかの議論は今も続いている」と説明した。この分析に大きな変化はないと、米政府当局者は言う。
米政府当局者によれば、イスラエルがすぐにイランを攻撃するとか、イスラエルが米オバマ政権がイランを攻撃するようたきつけているといった憶測に火が付いたのは、先週ロシアがイランの発電用原子炉に燃料の注入を始めるというニュースが大々的に報じられたせいだ(この当局者はロシアの燃料注入とイランの秘密裏の核兵器開発は無関係だと考えている)。
しかしアメリカとその同盟国の多くは、イランが実際の核兵器設計・製造過程で「後戻りできないところ」にたどり着くまで、少なくともあと1年はかかると見ている。米政府当局者たちの言うように、現在のイラン攻撃に関する報道は明らかに加熱し過ぎだ。