子供と結婚する男たち
遊びも教育も奪われて嫁に出される少女たち。貧しさゆえの早婚の伝統がなくなる日は遠い
真新しい白いドレスに輝く金のアクセサリー。ザイナブ・フセインは13年間の人生で最大の注目を浴びていた。
まるで子供のおめかしごっこのようだが、身に着けているものは本物ばかり。「私はお嫁さん。結婚するの!」。ザイナブは得意げに友達に言ったものだ。
数日後、ザイナブは30歳のいとこと結婚した。彼がザイナブの父親に払った「代金」は5000ドル。現在28歳になったザイナブは、当時を振り返ってこう言う。「とてもつらかった。今でも誰を責めていいのか分からない。でも両親のことはすごく恨んだ」
国連が世界最貧国の1つとするイエメンでは、今も幅広い地域で早婚の伝統が残っている。イエメンの全国女性委員会によると、主として地方部の少女300万〜500万人が、13歳になるかならないで結婚している。女子の半分以上が18歳未満で結婚するという調査結果もある。
もちろん早婚に反対する声はある。女子の結婚年齢を18歳以上とする法案が提出されたこともあるが、保守派の強力な反対によって阻まれてきた。
夫の家に嫁入りしたザイナブには、重労働の日々が待っていた。毎日ヤギを追い、薪を拾い、畑を耕した。朝早く何時間も歩いて飲み水をくみに行くのも彼女の仕事だった。それを妊娠中も続けたため、3度の流産を経験した。
母親の感情が湧かない
国連人口基金(UNFPA)によると、10〜14歳の女子が妊娠や出産で死亡する確率は、20代前半の女性より5倍も高い。肉体的な準備ができていないからだ。
夫の家族と同居することになったザイナブは孤独だった。夫は2カ月後に出稼ぎ先のサウジアラビアに「帰国」。イエメンに戻ってくるのはまれだった。
「相手が年配の男性の場合、金銭が絡んでいることが多い」と言うのは、イエメン女性連盟のファウジア・アルムライシーだ。「相手が出稼ぎ労働者だと、(花嫁の)父親は、娘がましな生活ができると思ってしまう」
15歳で初めての子を産んだとき、ザイナブは大きな怒りを覚えたという。夫の家族の前で娘をせっかんしたこともある。「母親だって気持ちがまったくなかったから」
だが今は罪悪感に駆られている。「娘を殴るなんて考えられない。娘は何も悪いことをしていなかった。でも私は、ただ自分を気に掛けてくれる人、愛してくれる人を必要としていた」
NGO(非政府組織)や政府機関は、早婚撲滅運動を展開している。イエメン女性連盟は09年に意識向上プロジェクトを立ち上げ、未成熟な少女が結婚や妊娠によって被る肉体的・心理的負担を訴え、教育こそ貧困のサイクルを断ち切るものだと説いてきた。
こうした努力は徐々に実を結びつつある。世界銀行によれば、05年に34%前後だった15歳以上の女性の識字率は、女性連盟などのキャンペーン後の07年には40%を超えるまでに改善している。
わが子には違う人生を
イエメンの男たちは、自分たちも早婚の伝統の犠牲者だという。女性連盟によれば、幼妻と結婚した男性の多くは不満を募らせ、70%がもっと自分と気の合う女性を新たに妻に迎えるという(イエメンには一夫多妻の伝統もある)。
ザイナブは夫が病気になって介護が必要になったとき、同情半分、子供たちと一緒にいられなくなる心配半分で、夫の元にとどまった。「病気の彼を見捨てるわけにはいかなかった」と彼女は言う。でも「それは間違っていた」