最新記事

都市計画

ロシア版シリコンバレーは腐るか

モスクワ郊外に建設中のイノベーション都市スコルコボは、役人の腐敗から隔離されるというが──

2010年5月13日(木)14時58分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

 ソ連時代は非効率極まりなかったが、それでもあの時代から今のロシアが学ぶべきことがある。ソ連は積極的に科学技術を支援し、61年に世界初の有人宇宙飛行を成功させた。しかしその後、科学への投資は減少。当時は対GDP比6%だったのが、今ではわずか1・5%だ。

 それだけではない。70年代にユダヤ系住民の知識層から始まった頭脳流出で、ロシアは20世紀末までに最も優秀な国民を50万人以上失った。09年の学術論文や学術誌の刊行数では、インドや中国を下回っている。このままでは、次世代の画期的技術を外国からの輸入に頼る羽目になるだろう。

 そこでメドベージェフ大統領は、石油やガスなどの資源に依存する「屈辱的」経済構造からの脱却を目指している。計画の目玉は、現在モスクワ郊外に建設中のイノベーション都市スコルコボ。14年までには、最大4万人の人口を抱え、優秀な頭脳と官民の投資が新興企業を生み出すロシア版スタンフォードにする予定だ。第2のシリコンバレーの地位も狙う。

 メドベージェフは技術投資に100億ドルの予算を割り当て、さらに各種プロジェクトに巨費を投じている。世界最大のナノテクノロジー投資ファンドや、国外のロシア人とロシア系企業を呼び戻すためのプログラムなどもその一部だ。

 問題は国家的な「たかり体質」。会計事務所プライスウォーターハウスクーパーズによるとロシアでは09年、企業の71%が警察や官僚による経済犯罪の標的になった。メドベージェフはこの都市をそうしたロシア的環境から隔離しようとしている。官僚をほとんど置かず、警察によるたかりの機会を減らすため法制度も簡素化する。

 それでも、ロシアにはびこる腐敗から完全にシャットアウトできるかは疑問だ。悪徳官僚の金づるがまた増えるだけかもしれない。

[2010年5月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中