パキスタンはテロリストの「デパート」
ニューヨークの車爆弾テロ未遂事件の背後にあると名指しされたパキスタンは、なぜテロリストを輩出し続けるのか
7つ道具 テロ未遂現場に残された時限装置とみられる時計。タリバンが事件を指示したとされる Reuters
5月1日、米ニューヨークのタイムズスクエアであった車爆弾テロ未遂事件。テロリストになり損ねた容疑者ファイサル・シャザドの過去は聞きなれたもの、と言えそうだ。ジハードを戦う聖戦士として集められた多くの者と同じく、シャザドは中流層出身で、きちんと教育を受け、表面的には社会に馴染んでいた――そして、何かをきっかけに急進的になった。
なぜ彼が、罪のない男性や女性、子供を殺そうと彼に思ったのかは分からないかもしれない。だがシャザドの過去には、他のテロリストやテロ未遂犯の多くとの重要な共通点がある。パキスタンとのつながりだ。
イギリス政府は、過去10年で暴いたテロ計画の70%がパキスタンにつながっていると見積もっている。イスラム世界でジハードへの支持が低下しているにも関わらず、パキスタンは今もテロリストの温床になっている。エジプトからヨルダン、マレーシアやインドネシアまで、イスラム過激派組織は軍事面で弱体化していており、政治面での支持も大分失っている。ではなぜパキスタンでは違うのか? 答えは簡単。建国の時からパキスタン政府はジハード集団を支援し、盛んに活動できる環境を作ってきたからだ。近年ではその方向性も一部変わってきているが、腐敗の根は深い。
建国まで遡るテロ組織との関係
協力を求めて「買い物」に出かけるテロリスト志望者にとって、パキスタンはスーパーマーケットのような存在だ。ジャイシェ・ムハマド(ムハマドの軍隊)、ラシュカレ・トイバ、アルカイダ、ハッカニ・ネットワーク、パキスタン・タリバン運動(TTP)など、ジハード組織は枚挙に暇がない。カシミール地方の分離独立を目指すイスラム教過激派組織ラシュカレ・トイバのような主要グループは、偽装団体を隠れ蓑にしてパキスタン全土で堂々と活動している。そしてどの組織も、資金や武器の調達には苦労していないようだ。
パキスタン人の学者で政治家のフセイン・ハッカニは名著『パキスタン――モスクと軍の間で』の中で、パキスタン政府と聖戦士の関係はイスラム国家としての建国まで遡ること、それは国内の支持を得て長年のライバル国インドを弱体化させるためにジハードを利用するという歴代政権の決定にも関係していることを書いている。ハッカニは、軍高官がテロリストと「自由を求める戦士」を区別していることに触れ、問題は体系的なものだと説明する。「この二元性は......歴史と、政府の一貫した方針に根ざす構造的な問題だ。ある政権の方針による偶然の結果ではない」。皮肉なことにハッカニは現在、駐米パキスタン大使を務めている(悲しいかな、彼を派遣している文民政権はほとんど実権がないようだ。このところ軍が勢力を強めている)。
ここ数カ月、パキスタン政府と軍は国内のテロリストに対してかつてないほど強硬な姿勢を取っており、軍も甚大な被害を出している。それでも、「テロリストを区別する」という軍幹部の不可解な態度は変わらない。パキスタン国民を脅かし、攻撃するテロリストに対しては激しい怒りを見せる。一方でアフガニスタン人やインド人、西洋人を脅かし、攻撃しするテロリストの多くは放置されている。