中国が外国を無視し続ける理由
イギリス人処刑や人民元切り上げ拒否の背景には胡錦濤の焦りがある
ソフトパワー外交で友好的な国というイメージを売り込もうとする中国の不器用な取り組みについては、既にマスコミでさんざん取り上げられている。8%成長を続ける中国は、経済面ではどの国にも負けない活躍をするかもしれないが、人心のつかみ方は分かっていないようだ。
昨年12月にコペンハーゲンで開催された国連の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で、中国は温室効果ガス排出規制に関する合意に反対した理由を追及されたが回答を拒否した。クリスマス当日の12月25日には、民主活動家として有名な作家の劉暁波(リウ・シアオポー)に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の刑を言い渡した。中国共産党を活字で批判したことが主な罪状とみられる。
12月29日には、麻薬密輸の罪に問われていたパキスタン系イギリス人アクマル・シャイフの死刑を執行した。彼は精神を患っており、麻薬の運び屋として利用されただけだというイギリス政府とシャイフの家族の必死の嘆願を中国政府は聞き入れようとしなかった。
しかしマスコミで中国を批判する評論家は重要なポイントを見逃している。中国政府は国際舞台での受けを狙っているわけではない。現在の中国政府にとって大事なのは、国内での受けだ。独裁政権は何よりも政治的安定を確保しなくてはならない。
現政権にとって特に重要なのは、2012年に新しい指導体制を発表する前段階として、その権力を国内に誇示することだ。
共産党内部では数十年ぶりに支配権をめぐる駆け引きが活発になり、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席と温家宝(ウェン・チアパオ)首相が率いるポピュリスト派が沿海部の経済力を背景にした成長優先派とやり合っている。この対抗勢力は、反体制派の問題から経済政策に至るまで、胡は優柔不断だと批判。こうした党内の批判は、国際的な人権団体からの抗議よりも胡の耳に大きく響く。
精神疾患の可能性があるイギリス人を処刑したことは、外国人には不当な暴挙に見えるかもしれないが、中国国内の見方は違う。中国では最近、異常殺人が続いており、少なくともそのうちの1件は精神疾患の病歴がある者によるものだったという。
目的は引退後の影響力
胡は12年に選ばれる自分の後継者と共産党中央政治局常務委員会の委員の人選への影響力を保持するために、国内で威信を保つ必要があると、米クレアモント・マッケナ大学のミンシン・ペイ教授は言う。「弱さを見せたら、おしまいだ」
ペイは最近の胡の強硬姿勢を、12年に引退した後も影響力を維持しようとする意欲の表れだとみている。江沢民前国家主席は何年もの間、自分が任命した常務委員の背後で影響力を行使した。
権力を移譲する前にどんな小さなミスも犯さないことが重要だからこそ、中国指導部は人民元の切り上げを求める西側からの圧力をかわし続けているのだろう。圧力に屈すれば中国の輸出に悪影響を及ぼすのは目に見えている。諸外国は、安価な中国製品の供給過剰が世界規模のデフレを引き起こすことを恐れるが、中国政府は輸出関連産業の堅調ぶりを維持したいと考えている。
通貨の問題だけではない。米外交問題評議会アジア研究部長のエリザベス・エコノミーが指摘するように、胡は人権の問題でも進歩的な立場を取ったことがない。
中国がある程度は世界の目を気にしているのは確かだ。ただし、どの国からの目を重視するかという点が変化してきている。例えばCOP15では、アメリカよりも途上国が中国の立場をどうみるかという点に気を使っていた。「中国は自らを途上国のリーダーだと考えているからだ」と、エコノミーは言う。