最新記事

テロ

見過ごされた新型「パンツ爆弾」警報

クリスマスの米航空機爆破テロ未遂事件に使われた「パンツ爆弾」は09年夏にサウジでも使われていた可能性が高く、米当局も報告書まで作っていた

2010年1月5日(火)16時14分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

「パンツ・ボマー」  下着に爆発物を隠していたアブドゥルムタラブ容疑者に付いたあだ名 Reuters

 米安全保障当局の情報源から得た情報によると、米国土安全保障省(DHS)などは昨秋、下着の下や体内に隠された爆発物が航空機の運行に及ぼす脅威についての報告書を配布していた。

 国家テロ対策センター(NCTC)とCIA(米中央情報局)、DHSが作成したこの報告書は、クリスマスの米機爆破テロ未遂事件など具体的な計画について警告していたわけではないし、爆発物は「パンツの中」にあると特定していたわけでもない。

 だが問題は、事件の何カ月も前に下着爆弾の危険性を検討していながら、何も対策を採っていなかった事実だ。米情報当局や治安当局、そしてオバマ政権のテロ対策は機能しているのか。クリスマスの日、容疑者のウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブが試みたとされる類のテロに対する警戒と備えは十分だったのか。

 バラク・オバマ大統領は1月2日、クリスマスのテロ未遂事件にはイエメンとサウジアラビアを拠点とするアルカイダ系武装組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)が関与したと表明。計画を練ったのも爆弾を作ったのもAQAPだという見方を示した。

 先の安全保障当局者によると、報告書が配られたのは2カ月ほど前。米当局はちょうどその頃、サウジアラビアの対テロ対策責任者ナエフ王子を襲った09年8月のテロ未遂事件に関連して、初期の検死結果を受け取ったところだった。

 それによれば、自爆テロ攻撃で死んだサウジアラビア人のアルアシリは、肛門に爆発物を隠していたとされていた(アルアシリはイエメンに逃げていたことがあり、捜査当局はこの爆発物もイエメンで入手したとみている)。だがサウジアラビア当局は後に、アルアシリが爆弾を隠していたのは下着の中だったと結論づけた。

2つの爆弾を作ったのは同一人物?

 10月にはナエフ自身がホワイトハウスを訪問し、テロ対策担当の大統領補佐官ジョン・ブレナンに、下着の下に爆発物を隠す技術について伝達していた。クリスマスのテロ未遂事件を担当する捜査官らが語ったところでは、彼らは今では、アルアシリとアブドゥルムタラブが使ったとされる爆発物は、同じ人物が作った可能性が高いと考えている。

 オバマ政権関係者によると、ナエフがホワイトハウスに伝達した情報はきちんと関連機関に伝えられた。冒頭のNCTCらの報告書は、これら機関がナエフの情報を十分吟味した後に書かれたようだ。

 複数の治安当局者によると、下着に隠された爆弾は、肛門などに埋め込まれた爆弾より航空機の運行に大きな危険を及ぼすとこの報告書は指摘している。体内の爆弾は衝撃の多くが人体に吸収されてしまうため、傍にいた人を傷つけることはあっても、飛行機の構造そのものを破壊する可能性は少ない。だが下着に隠された爆弾は、潜在的に破壊的な損傷を航空機に与え得るという。

 NCTはこの報告書についてのコメントを拒否、CIAからも返答はなかった。DHSの担当者は匿名を条件に、ナエフに対する自爆テロ攻撃について詳細な報告を受けたことを認めた。「DHSは事件と使用された技術について報告を受けた。もちろん、関係者に知らしめるべき情報だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中