世界を映すゴルフの国際政治学
ゴルフコースは中流層の拡大や政治的開放性のバロメーターだ
Shannon Stapleton-Reuters
男子の全米プロゴルフ選手権の最終日となった8月16日、誰も予想していなかった事態が起きた。
世界ランキング第1位のタイガー・ウッズが、パットに苦しみ2位に転落。昨年の優勝者でヨーロッパ最高のゴルファーとも言われるパドレイグ・ハリントン(アイルランド)も、パー3のホールで8打をたたいて自滅した。
そんななか優勝をさらったのは、世界ランキング110位で完全なダークホースだった韓国のY・E・ヤン。アメリカの影が薄くなり、ヨーロッパは大崩れとなり、アジアが台頭するという図式がはっきり見えた瞬間だ。
はて、どこかで聞いたような?
そう、経済の世界で起きていることと同じだ。アジアは経済危機から比較的無傷で立ち直りつつあり、今年5%(中国単独では8%)の成長を見込んでいる。だがアメリカでは景気後退が続いており、多少なりともプラス成長に転じるのは今年後半になりそうだ。
ヨーロッパはもっとひどい。各国の経済成長率はわずかにプラスか場合によってはマイナス。国際的な地位の低下も著しい。20世紀の歴史はヨーロッパを中心に回ったが、21世紀はそうはいかないだろう。ハリントン選手が大崩れしたのはその前触れだ。
実際、ゴルフは政治や経済について思いもかけず多くのことをわれわれに教えてくれる。
少し前に外交ジャーナリストのトーマス・フリードマンは、「マクドナルドの紛争予防理論」を唱えた。マクドナルドがチェーン展開する国では中流層が十分な規模に成長しており、そうした国同士は戦争をしないというものだ(ロシアとグルジア、イスラエルとレバノンなど例外はあるが)。
だがゴルフもビッグマックと同じくらい注目に値する。ゴルフコースがたくさんある国はアメリカに友好的であることが多い。逆にゴルフコースを閉鎖するような国は、反米的な傾向が極めて強い。これを歴史のゴルフ理論と呼ぼう。
キューバでも開発ブーム
怪しいと思うなら、ベトナムとベネズエラを比べてみるといい。ベトナムは長年アメリカの敵国だったが今は友好国だ。そんな変化を最も象徴しているのが南北を貫く「ホーチミン・ゴルフ・ルート」だろう。このルートをたどれば、全国に点在する高級ゴルフコースやリゾートをはしごできる。
他方、反米のウゴ・チャベス大統領が率いるベネズエラ政府は最近、国内のゴルフコースを相次いで閉鎖した。チャベスは国営テレビでもゴルフを「ブルジョア趣味」だと攻撃。こうした抑圧的な政策のせいで、ベネズエラからは中流層が大量に国外に流出している。
南北朝鮮もいい例だ。閉鎖的な北朝鮮には3つしかないとされるゴルフコースが、民主的な韓国には230以上も存在する。
ただしチャベスの主張にも正しい部分がある。ゴルフは政治と経済がどのくらい開放に向かっているかを表す指標だということだ。皮肉にもチャベスが最も敬愛するキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長も、その方向に向かっているようだ。