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イラン神権国家の壁は崩れず

2009年8月4日(火)12時51分
ファリード・ザカリア(本誌国際版編集長)

アメリカの干渉はイランの思う壺

 80~88年のイラン・イラク戦争では、アメリカがイラクを支援した。イラク軍がイラン人に対して化学兵器を使ったことにも目をつぶった。当然、イラン人はその恨みを忘れない。アメリカのブッシュ政権が過去8年間、イラン攻撃の可能性をちらつかせてきたことも、イラン人の民族意識を刺激した。

 こうした経緯を考えるなら、バラク・オバマ米大統領が政治的な発言を控えているのは正しい。アメリカは過去に、世界各地の民族主義の力を過小評価しがちだった。外国を悪者にして自らの権力を守ろうとする体制の嘘を、賢い市民なら見抜けると信じてきた。

 だが、今のイラクを見るといい。ヌーリ・マリキ首相は、米軍の撤退を「外国の占領者を追い出す英雄的な」出来事と豪語している。占領軍のおかげで首相になれたくせに、国民にアピールするためなら占領軍を悪者扱いする。なかなか抜け目ない人物だ。

 アハマディネジャドも、大衆に受けるすべを知っている。今回も、既にアメリカの「内政干渉」を非難している。わが国としては、敵にそんな非難の口実を与えてはならない。オバマが抗議デモを支持したりすれば、それこそアハマディネジャドの思う壺だ。 

[2009年7月 8日号掲載]

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