ガールズ小説、アジアに上陸
恋や仕事に悩む等身大のヒロインを描く新しいジャンルが花開く
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意中の彼が、ついに婚約指輪をプレゼントしてくれた! 恋に夢中のグレースには、彼が外国に転勤することも、彼の写真に脚の長いブロンド女が登場することも気にならない。彼に内緒でシンガポールまで会いにいった彼女は突然、夢の結婚と子供のいる平穏な生活を激しく求めるようになり......。
都会で働くおしゃれなヒロインが、恋を追い求め、何度も訪れる危機を乗り越えていく。タラ・セリングの小説『アメージング・グレース』は、「チック・リット」(若い女性をターゲットにした小説)の要素をすべて持っている。
ただし、従来と違う特徴も1つある。この小説はアジアの作家がアジアの読者向けに書いた作品。主人公は中国系フィリピン人だ。
英米生まれのチック・リットは、ここ10年間に大ブームを巻き起こした。初期の代表作はヘレン・フィールディングの『ブリジット・ジョーンズの日記』とキャンディス・ブシュネルの『セックスとニューヨーク』(『セックス・アンド・ザ・シティ』の原作)。どちらも何百万部も売れ、数十カ国語に翻訳され、ドラマや映画になり、ヒロインは憧れの的になった。
最近もソフィー・キンセラの『レベッカのお買いもの日記』シリーズやローレン・ワイズバーガーの『プラダを着た悪魔』が世界中のファンを魅了している。こうした作品に刺激を受けて、南米や東欧、インドでも同ジャンルの作品が登場するようになった。
でも、アジアの作家は腰が重かった。衛慧の『上海ベイビー』やアユ・ウタミの『サマン』など、アジアでも多くの女流作家が恋愛やセックスを題材にしてきたが、こうした小説特有の軽いノリやユーモアが欠けていた。
基本と地元文化の両立
「欧米のチック・リットは憧れや恋愛がテーマ。中国の女性向け小説は、アイデンティティーの問題や社会的・歴史的な背景を意識した作品が多い」と、香港の著作権エージェント会社クリエーティブワークのマリシア・ユーシチャキェビチは言う。
この市場の隙間を狙っているのが、世界的な販売網を持つシンガポールの出版社マーシャル・キャベンディッシュだ。同社は08年11月、『アジアン・チック』と銘打ったシリーズ小説3作品を出版。シンガポールとマレーシアでそれぞれ約2000部を売り上げた。どちらも仕事と家族、恋愛の両立を図る小粋なヒロインの物語だ。
5月には、結婚してよかったのかどうかを悩む大富豪の娘を描いたケシェラ・ヤングの『ラブ・オブ・ハー・ライフ』を出版。さらに2作品の出版を予定している。同社がシンガポールで開催した小説コンクールには60作以上の応募があり、今後はマレーシアでも同様のコンクールを行う計画だ。
「このジャンルは、この15年間の世界の出版業界で最も成功した分野の1つ。アジアでも人気が高い。だから、ぜひアジア版を作りたかった」と、同社のクリス・ニューソンは言う。