議事堂は殺人犯がいっぱい
下院の深刻な「犯罪汚染」は4月13日から始まる総選挙でも変わりそうにない
「世界最大の民主主義国」の面汚し――2月26日に閉会したインド下院の面々が嘲笑を浴びるのも無理はない。この1年間で審議を行った日数は史上最低の46日。議員の10人に1人は、一度も審議に参加していない。
原因は、犯罪とのかかわりを指摘される議員が多すぎて、議会が混乱状態に陥ったことにある。収賄で議席を失った議員は11人。殺人で有罪判決を受け、辞職に追い込まれた現職閣僚もいた(その後、上訴審で無罪判決)。野党の要求で内閣の信任投票が行われたときは、刑務所から議事堂に移送されて採決に参加した議員も何人かいた(殺人罪で終身刑に服している議員も2人いた)。
任期切れに伴う下院の総選挙は、4月16日の第1回投票を皮切りに5月半ばまでの間に5回に分けて実施される。ソームナート・チャタジー下院議長は26日の議会閉会の際、この総選挙で再選をめざす議員たちに厳しい言葉を突きつけた。「あなたたちには国民の血税を受け取る資格がまったくない。全員落選することを望む」
議長の望みどおりにはなりそうにない。もともとこの国の政党はいかがわしい勢力と結託して選挙で票を集めてきた歴史がある。最近は犯罪の容疑者や有罪判決を受けた人間がますます政治の世界で幅を利かせるようになった。
とくに90年代後半以降、特定の民族やカースト(階層)に基盤をおく政党が台頭し、全国規模の大政党の力が弱まり、多党分立化が加速。84年の国民会議派政権を最後に、1政党の単独政権は成立していない。国民会議派やインド人民党(BJP)など主要6政党の獲得した議席の数は91年総選挙の477議席(定数545)に対し、04年の総選挙では388議席にまで落ち込んだ。
有力政党4〜5党の候補者が乱立する選挙区も珍しくなく、15%程度の得票率で当選できてしまう場合もある。その結果、地元で権勢を振るう大物犯罪者は有力候補を支援することを通じて影響力を行使するまでもなく、自分自身で選挙に立候補して当選しやすくなった。4〜5月の総選挙では地域政党の躍進が予測されており、刑事捜査の対象になった経験をもつ人物が次期首相の座に就く可能性も十分にある。
前回の04年総選挙は、立候補者に資産と犯罪関連の経歴の公開を義務づける新しい法律の下で初めて実施されたが、選挙結果にはほとんど影響がなかったようだ。当選した543人のうち、犯罪の嫌疑をかけられた経験のある人物は128人(殺人が84件、強盗が17 件、窃盗と恐喝が合わせて28件)。17件の殺人容疑をかけられた経歴をもつ議員もいた。