議事堂は殺人犯がいっぱい
米印原子力協定も「汚染」
前々回以前の選挙の立候補者に関する資料はないが、状況はしだいに悪化してきているとほとんどの専門家はみている。「犯罪者の政治への影響力は強まる一方だというのがおおかたの見方」だと、インドの市民団体の連合体である全国社会監視連盟のヒマンシュ・ジャーは言う。
インドの法律では、裁判で有罪判決を受けた人物は選挙に立候補できないことになっているが、上訴審の審理が続いている間は立候補の資格が停止されない。この国では上訴審が結審するまでに25〜30年かかるので、政界を引退するまで時間かせぎができてしまう。
弊害は多方面にわたっている。選挙で当選した犯罪者は地位を利用して私腹を肥やし、刑事訴追を回避し、私的な目的のために政府や警察に不当な圧力をかける。犯罪を立件されそうになると、有力議員であれば、政治的影響力を及ぼして警察職員や判事を異動させてしまえる場合もある。
アメリカとの原子力協力協定のように、国の未来を左右する重要問題にまで、有力政治家の「犯罪行為」が影響を及ぼしたという見方が広がっている。
08年7月、マンモハン・シン首相と最大与党の国民会議派が原子力協定を推進したことに反発して、政権に閣外協力していた左派政党が連立を離脱。少数与党に転落したシン政権は、議会で信任投票にかけられることになった。
懸命の多数派工作の結果、野党の社会党が原子力協定支持に転じ、与党支持に回った。これでシン政権は信任投票を乗り切り、原子力協定も議会の支持を受けた形になった。
社会党のムラヤム・シン・ヤダブ党首は汚職容疑で刑事捜査を受けていたが、この信任投票の後、捜査は打ち切り。議員たちの自宅に現金の詰まったスーツケースが届いたという噂も流れた。結局、この買収スキャンダルはすぐにうやむやになり、捜査が開始されることすらなかった。
犯罪に「汚染」されているのは地域政党や小政党だけではない。2月26日に閉会した下院では、2大政党である国民会議派とBJPの議員の約5人に1人が刑事犯罪の捜査対象になっていた。刑事責任を問われていた現職議員も国民会議派に26人、BJPに29人いた。
2大政党は、重大な犯罪の容疑で刑事責任を問われている政治家にも閣僚ポストを与えてきた。たとえば国民会議派は、元私設秘書を誘拐・殺害した容疑と宗派対立に関連して11人を殺害した容疑で裁判中だったシブ・ソレンを、石炭相に任命した(その後、ソレンは有罪判決を受けて辞職。しかし上訴審で無罪判決が下った)。
「(政党による選挙の候補者選定の)基準は『当選可能性』に終始し、人格や業績、実務能力や分析能力がないがしろにされている」と、元ジャーナリストで現在はBJP所属議員のアルン・シューリは言う。「その結果、人々が自分の会社に雇いたくないと思うような――というより、かかわり合いになりたくないと思うような――人物が議員になってしまう」