最新記事

ファッション

パリで成功をつかんだ日本人調香師、新間美也「まず詩を書いて、その目標に向け調合する」

2024年06月19日(水)13時30分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

そんな多忙な状況にあっても、「とにかく香りに囲まれていることが幸せです。特に好きな香りはなく、香料は全部好きです。香水にあまり興味がない人たちには、香水という芸術作品をきっかけに、生活の中の香りに興味をもっていただけたらと思います。フランス人は香りに敏感で、いつでも香りを楽しんでいます。香りに気を配ることで、きっと生活が豊かになるでしょう」と言う。目を輝かせて香りの魅力を語る姿は印象的だ。

自分のブランド化は、父親の影響も受けた

市場に香水があふれている今、自分のブランドを長年販売し続けるのは、並々ならぬ努力がいる。新間さんの自分軸がぶれなかった背景には、京都で生活し、日本の古い文化に慣れ親しんだ経験もあった。京都の建物や食べ物、自然や空気といった香りを知っていることは、日本への関心が益々高まっているヨーロッパで「自分の香水は気に入ってもらえるはず」という自信の拠り所になった。

新間さんは、2つの事業を起こした父親の姿にも刺激を受けたという(母親も起業家だった)。父親は人脈がとても広く、他界した時、1000人以上が葬儀に参列した。参列者たちの職業は実に様々で、誰とでも分け隔てなく接していた父親の生き方とビジネスへの姿勢を改めて知った。新間さんは、そんな非常にオープンマインドだった父親を尊敬しながら、自分の香水ビジネスにおいては父とは異なる立場を取っていると説明する。

『香水のすべて イラストで読み解く香りの文化と歴史』「父は自分のスタイルをもつことが大事だと教えてくれました。とすれば私の場合は、香水を提供する目的や、どういう人たちにファンになってほしいかというビジョンをしっかりと定めて、ブランドイメージを確立しなくてはと思ったのです。香り自体は見えないので、瓶やパッケージ(漆の箱や着物の生地など)も含めて他の香水との差別化を図り、Miya Shinma Parisのアイデンティティを知ってもらうにはどうしたらよいかを常に考えています」

自身の香水作り、オーダーメイドの香水作り、香りの教育、香りに関する著述(書下ろしや翻訳)と、まさに香水に人生をかけている新間さん。「パリにいる、ものすごくパワフルな年上の友人たちの様子を見ていると、まだまだ自分は若くて何でもできる気がしています」と笑う彼女から、新しい香水や著書がさらに飛び出すはずだ。


岩澤里美[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 3

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 4

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること