イスラム版『セックス・アンド・ザ・シティ』の新鮮さと衝撃度
A New Look at Muslim Women
アミナのほうも、「闇の魔法使いヴォルデモートはあたしのヒジャブの下で生きている!」などとがなり立てる過激なバンドは勘弁願いたい。それでも一緒に演奏してみれば、相性は最高。アミナは研究と音楽活動の二重生活を送るうちに仲間の自信と冒険魂に刺激され、「よきムスリム女性」の在り方を問い直す。
転機となるのが、田園地帯への日帰り旅行だ。不法侵入になるのではとびくびくするアミナに、ビスマが言い返す。
「私たちがこの大地に座ってこのマリフアナを吸えるようにと、ご先祖様は白人の戦争に行って死んだんだよ」
ビスマの言葉に背中を押され、アミナは自分を縛っていたお堅い価値観を捨てる。こうしてバンドは結束するのだが、その団結力はさまざまな試練に揺さぶられる。
ライブでは白人男どもに「引っ込め!」とやじられ、同じムスリム女性のインフルエンサーに利用されそうになり、ツイッターではアンチ派に「偽ムスリム」とバッシングされる。
ムスリム女性の内面や彼女たちが体験する差別の複雑さをこれほど鋭く、細やかに捉えた作品は、アメリカには存在しない。
「多様なキャラクター」にも入れない
女性や有色人種のキャラクターと、そうしたバックグラウンドを持つ俳優の活躍の場を増やすことを求める声は、ハリウッドでも大きくなっている。だがMENA(中東および北アフリカ)の女性は、議論から除外されてきた。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者がまとめた2020年版『ハリウッドの多様性に関する報告書』によれば、台本のあるテレビ番組に登場するMENAのキャラクターは白人、黒人、ラティーノ(中南米系)、アジア人、複数の人種の血を引くマルチレーシャルよりも少ない。
ハリウッド映画の状況も似たようなものだ。20年に映画に登場したキャラクターのうち、MENAが占めた割合は1.3%。さらにMENAの女性となると「あまりにも登場が少ない」。また監督のうちMENAが占めた割合は1.6%で、MENAの女性監督はたった1人だった。
テレビで活躍するMENAの俳優はもともと少ないが、女優となるとなおさらだ。彼女たちが演じるムスリム女性のキャラクターにしても、イスラム教の信仰から逸脱することで存在意義を認められているきらいがある。
例えばドラマ『HOMELAND』のファラは、アメリカへの忠誠心を示すためにテロリストの摘発に協力する。『エリート』のナディアは、ムスリムでない男の気を引くために頭のスカーフを外す。『ユナイテッド・ステイツ・オブ・アル』のハッシーナは、アフガニスタンの家父長制的な文化を笑うジョークのネタ振り担当だ。