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機能不全な親子関係 ──子役スターと父のゆがんだ愛の行方

Shia LaBeouf’s New Movie Does the Impossible

2020年08月18日(火)17時00分
インクー・カン

父(左)に振り回される子供時代を過ごしたオーティス(右) ©2019 HONEY BOY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<シャイア・ラブーフの自伝的映画『ハニーボーイ』はトラウマ的親子関係を率直かつ公平に描いた意欲作>

「シャイア・ラブーフがホールフーズの店舗に爆弾を仕掛けたんだって」と、ネットフリックスのアニメ『ビッグ・マウス』である登場人物が言う。「アートのつもりなんじゃないの?」と、相手は小ばかにしたように答える。

ラブーフと言えば、映画『トランスフォーマー』のシリーズで主役を演じたスター俳優だが、このやりとりからも分かるとおり、奇行や虚勢を張った態度、暴力性といった印象が強い人物でもある。元子役スターにありがちな話だが、最近では仕事よりも私生活でのトラブルで注目を浴びることが多いようだ。

アルマ・ハレル監督の長編デビュー作『ハニーボーイ』は、そんなラブーフが脚本を手掛けた自伝的映画だ。この脚本を彼は、裁判所の命令で入所していた更生施設の中で書いた。主人公の父親役(毒親で実父がモデル)で出演もしている......と言うと、自己憐憫と自己弁護の塊のような作品に聞こえるけれど、見て分かるのは書き手としても役者としても「ありのままに語ろう」というラブーフの姿勢だ。セレブのイメージ作戦という見方もできるが、そんなことは気にならないくらい見応えがある。

主人公のオーティス(ノア・ジュプが静かで自然な演技を見せる)は早熟で落ち着いた12歳の人気子役。ハニーボーイとは父のジェームズ(ラブーフ)に付けられた甘ったるいニックネームだ。

いろいろな面でよくできた作品だ。ショービズの世界の中でおかしくなってしまう父子関係は見る者の胸に刺さるし、わが子への敵意が父親自身の承認欲求の裏返しで強められ、虐待につながってしまう部分には心かき乱される。

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©2019 HONEY BOY, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ラブーフの卓越した演技力のおかげで、ビール腹に薄くなった頭髪、多弁といった表面的なイメージに惑わされず、繊細な部分にきちんと目が行く。これまでの人生を通して実父を観察してきた成果が出ているのは明らかだ。登場人物の性格がしっかり掘り下げられ、痛みの伴うテーマではあるが、映像的にも創意に富んでいる。

実在の人物をモデルにした作品を作るには本人の許諾が必要だが、ラブーフは父に「メル・ギブソンが演じる」と嘘をついて許諾を得たという。確かに年齢の問題さえなければ、ギブソンははまり役だったかもしれない。

かつてロデオ会場で盛り上げ役の道化師をしていたジェームズは、本人が思うほどに強烈な魅力の持ち主ではない。アルコール依存は何とか抑え込んでいるが、怒りへの依存は止められない。

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