機能不全な親子関係 ──子役スターと父のゆがんだ愛の行方
Shia LaBeouf’s New Movie Does the Impossible
親子2人のシーンのほとんどは、家代わりの散らかったモーテルの一室で展開する。いつもあら探しばかりしているジェームズに対し、オーティスはいつ攻撃されるかと身構えている。攻撃は言葉によるものが多い。
ジェームズは繰り返し、息子の俳優という職を悪く言う(「お前の仕事は嘘をつくことだ」)。そして男らしさに欠けると言い掛かりをつける。だがジェームズが息子にたくましくなれと言うのは本心ではない。そうなったが最後、父はノックアウトされてしまうこと間違いないのだから。
人気子役の親子関係が機能不全に陥るという話は珍しくない。だが本作で描かれる「子役スターの裏の私生活」が面白いのは、日々のよどみが描かれているところだ。ジェームズはオーティスのギャラを自分のポケットに入れる。オーティスはみんなが帰宅した後に撮影セットから食べ物をくすねる。ジェームズが撮影現場に迎えに来なかった日、オーティスは父をかばってスタッフに嘘をつく。
2人は許し合えるのか
ジェームズはナルシシストで、子育てをゼロサムゲームのように考えている。息子に何かを与えると、自分から何か大切なものが失われるというふうに。ラブーフの脚本は、父と息子が互いに仕掛ける罠を巧みに描き出している。
作中では徐々に、ジェームズの人生を形作ってきた悲劇や過去の犯罪について明らかになっていく。強い恥と嫉妬の感情を何とか抑え付けようとしていることも。ジェームズが身にまとったよろいを脱ぐのはアルコール依存症患者の集まりの時だけだ。
成人したオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は飲酒運転で事故を起こして更生施設に入るが、父がアルコール依存症患者の集まりで語った告白すら完全な真実ではないと非難する。だがそれより問題なのは、父も息子も暴力と依存のサイクルにはまり込んでしまったということだ。
最後の場面でオーティスは父の元を訪ねる。ジェームズは息子を受け入れず、観客の期待するような円満な幕切れはないまま物語は終わる。それでもラブーフが見せた誠実さだけで、観客にとっては十分ではないだろうか。
HONEY BOY『ハニーボーイ』
監督/アルマ・ハレル
主演/シャイア・ラブーフ、ノア・ジュプ
8月7日より日本公開
2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。
[2020年8月11日号掲載]