8月5日に他界した、巨人トニ・モリスンが私たちに問い掛けたこと
それは今も変わっていないのかもしれない。いまだに「純文学」のカテゴリーにモリスンの作品を分類することに抵抗を感じる人たちもいる。
モリスンは以前、あるイベントでこう述べたことがある── 私の作品は大学のアフリカ系アメリカ人文学科や社会学科、時には法学部でも取り上げられるが、一流大学の英文科では扱われない、と。
モリスンは、自らの著作がどう読まれ、どのように理解されたり誤解されたりしているかという点に、常に注意を払い続けた。
そして社会批評家としては、13~14年に白人警察官による黒人射殺事件が相次ぎ、抗議活動が勢いを増すよりはるか前に、アメリカで人種に基づく暴力が激化することを予見していた。いまトランプ時代に人種差別が再燃している状況も、まさにモリスンの予測したとおりだ。
18年には、モリスンの思想を取り上げた『外国人の家』というドキュメンタリー映画が発表されている。この中でモリスンは、奴隷船で無理やり運ばれてきたアフリカ人の心の傷、05年に巨大ハリケーン「カトリーナ」で被災したニューオーリンズの黒人住民の苦しみ、そしていま世界で起きている難民危機の類似性を論じている。このような視点こそ、トニ・モリスンという偉大な作家が未来に残す不朽の業績だ。
モリスンは『外国人の家』の中で、未来を決めるのは私たち一人一人だと訴えた。これは数々の小説の中で間接的に主張し、ノーベル文学賞の受賞記念講演でも述べていることだ。
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。
[2019年9月 3日号掲載]