凄まじい紙の教科書の価格上昇率──デジタル化で学生は救われるのか?
Pushing Students to Ebooks
研究や調べもので使うには電子版がいいと考える学生も増えている PeopleImages-iStock
<世界最大の教育出版社が印刷版から電子版に移行。高価過ぎる教科書に悲鳴を上げてきた学生への福音、とはならない?>
「当社でも年間売り上げの半分以上をデジタル部門が占めるので、遅まきながら新聞や音楽、放送などの業界に倣って、主力商品の作り方を転換することに決めた」。先頃、世界最大の教科書出版社ピアソンのジョン・ファロンCEOは英BBCのインタビューでそう明かした。
要は教材のデジタル化に突き進むということだが、その舵取りは難しい。同社はアメリカ市場で大学生向けデジタル教材の売り込みに力を入れているが、19年の売り上げは5%減を見込む。傘下のフィナンシャル・タイムズ紙やエコノミスト誌の売却益で、どうにかデジタル化の費用を賄っている。
教科書のデジタル化推進という戦略には、もう紙の教科書は改訂しないというメッセージが込められている。紙の教科書は3年ごとに改訂されるのが普通で、ピアソンも毎年、約1500点ある教科書の3分の1について改訂版を出してきた。しかし今後は紙の改訂版を年間100点に絞り、代わりに電子版は随時改訂するという。
ファロンによれば、この「デジタル・ファースト」のモデルに転換すれば、会社の収益は増えて学生の負担も減る。「学生が中古の教科書を買う理由がなくなる」からだ。
シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所によると、1998年から2016年の間に教科書の価格は90%も上がった。一般の消費財、一般の書籍よりも高い上昇率だ。しかしピアソンによれば、電子版の教科書なら1冊平均40ドルだし、「デジタル学習ツール」のセットでも79ドルだ。
中古市場は過去のもの?
同社は今でも紙の教科書を60ドル程度でレンタルしているが、これも今後はデジタルに移行していくという。「ネットフリックスやスポティファイに慣れた世代は、所有よりもレンタル利用を好むはずだ」とファロンは考えている。
マーケット・アナリストのフィル・ヒルに言わせれば、これは紙の教科書の中古市場を切り捨てる乱暴なやり方だ。「企業の意図が丸見えだから、学生も書店も反発するのではないか。学生は中古教科書のレンタルを歓迎していたし、紙の教科書のほうがいいと思っている」