「狭き門を気に病む必要はない」――『クレイジー・リッチ!』主演女優がこじ開けたハリウッドの扉
Minority Report
「自分の文化的アイデンティティーが引き裂かれる」と、台湾人の母と中国人の父を持ち、カリフォルニアで育ったチュウは言う。「自分がアジア人なのかそうでないのか、選択を迫られているような気になるんだ。でもやがて、それぞれの文化をリミックスし、何を引き継ぐべきか決められるようになる」
独自のコンテンツを築く
36歳のウーにとっても、身に覚えのある話だ。両親は台湾からアメリカに移住。ウーの初舞台は12歳の時、地元劇場での公演だった。ニューヨーク州立大学パーチェス校で演技を学んだが、卒業後はなかなか舞台の仕事にありつけず、もう少しで俳優業を断念するところだった。
彼女のキャリアを救ったのは、2010年の恋人との別れだった。「テレビや映画をやるつもりはなかったけど、ニューヨークの男と別れて、出ていかざるを得なかった」と、ウーは言う。
そこで向かったのがロサンゼルスだ。ハリウッドの多様性確保の方針のおかげで、ウーはいくつか役を射止めた。だが彼女はすぐに、親友役やコミカルなアシスタント役など、マイノリティーに与えられる型どおりの役にうんざりした。
『フアン家のアメリカ開拓記』での抜擢も、ありがたいようなありがたくないような気分だった。「そこでも主役は(夫役の)ランドール(・パーク)だった。彼がこの地位をつかんだのは喜ばしいけれど、アジア系の女性はいつでも脇役か相手役だ」
『クレイジー・リッチ!』のレイチェル役では、ウーが当初からトップ候補に挙がっていた。ウーがアジア系アメリカ人の役割についてツイッターで発信する内容に、チュウが以前から感銘を受けていたからだ。2人は初顔合わせで意気投合したものの、ウーのテレビのスケジュールがぶつかり、渋々ながらタッグを組むのを断念した。
だが数カ月後、ウーはチュウにメールで熱い思いをぶつけた。「どうしても秋に撮影しなければいけないのだとしたら仕方ない。でも少し遅らせられるのなら、私は喜んで参加したい」。チュウは即座に制作スケジュールを3カ月後ろ倒しにした。
『クレイジー・リッチ!』は、より多くのアジア系アメリカ人たちが主役を張るためのきっかけとなるのか。答えは興行成績に懸かっている。
だがウーは、映画以外の形態にも希望を持っている。アジズ・アンサリ主演のネットフリックスのドラマ『マスター・オブ・ゼロ』や、YouTubeで人気のグループ「ウォン・フー・プロダクション」による『ヤッピー』シリーズなどだ。
「アジア系アメリカ人は役を与えられるのを待っていない。彼らは自分で独自のコンテンツを作っている」と、ウーは言う。「ハリウッドの狭き門を気に病む必要はない。自ら新たな世界を開きつつあるのだから」
[2018年10月 2日号掲載]