「日産の未来」──フランス人識者はどう見る?
Philippe Wojazer-REUTERS
<「日産次期会長任命は、そう簡単にはいかないだろう」──。フランス人専門家が考察する「3社連合」と「日産」の行方とは>
元日産自動車会長兼CEOのカルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕された「ゴーン事件」は、フランスでも議論の的となっている。
これら一連の逮捕劇をフランスの識者はどう見ているのか? 「3社連合(ルノー・日産・三菱)の未来」や「日産の今後」についての見解を、フランス国立工芸院のトマ・デュラン教授と、国際経済予測研究センターのアドバイザー、ミシェル・フカン氏に聞いた。
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「現段階では、長年忍耐強く作り上げられたアライアンスを守ることが大切」
取材に応じてくれたのはフランス国立工芸院で教鞭を執り、企業戦略やマネージメントに精通するトマ・デュラン教授だ。同氏は、「かじ取り役がいない今、ルノーと日産の次期トップ任命は難色を示す可能性がある」と言う。
フランス国立工芸院で教授を務める傍ら、企業のトップにコンサルティングをするトマ・デュラン教授(Thomas Durand)
――ゴーン氏の逮捕劇をどう見るか。なぜ、今回の事件は日産で起こったとされるのか。
有罪の判決が下されるまで、被告人は無実と推定されるべき「推定無罪」という法の原則を忘れてはいけない。
一方で、ゴーン氏の疑惑は、重大なものだった。西川氏がこの疑惑をルノー幹部を含め拡散しようとしたのも、この疑惑の重さを理解してのことであろう。会社の資金を個人流用したかもしれないという疑惑は、フランスの法律でいうところの「社会財産の乱用(Abus de biens sociaux)」だ。
もしこれらの疑いが法廷で認められた場合、まず「なぜ、日産で?」という疑問が生じる。
続いて他の3つの質問が浮かぶ。「ゴーン氏はなぜ高収入を得ているに関わらず、法を犯して、すべてを失うリスクを負ったのか」、「なぜ日産で、この法を犯したのか」、また、違う角度で考えると「なぜこの事件は、日産で発端したのか」ということも疑問点だ。
――日産とルノーのガバナンスの相違から生じる問題点は何か。
両社のコーポレート・ガバナンス(企業統治)において異なるのは、統制と監査の工程、報酬委員会の性質だ。
また、資本関係のバランスも考察するべきだ。現在、ルノーが日産の43.4%の株式を保有するのに比べ、日産はルノーの15%の株式を持っている。そして、ルノーに15%出資する「フランス政府の存在」も、ルノーと日産のガバナンスにおける違いだ。
これらの相違は、いくつかの摩擦を起こす可能性がある。
1つ目は、長年にわたる「ルノーと日産の成長の差」がもたらす摩擦だ。両社とも事業が拡大したが、ルノーに比べ日産は大規模に成長した。そのため、アライアンス内の力関係の調整を提案する声がある。これは、企業の株の所有権の再検討を他企業が問題提議しても良いのか、という問題である。
2つ目は、フランス政府が株主と言う点だ。フランスでは国が株主になることがよくあり、それはそれは事業持続の保証、企業の監査、統制の保証と捉えられている。しかし、それはフランス国外では異なる。政府が株を保有していることは、不安要素でさえありうる。
【参考記事】株主総会を無視したゴーン「ルノー高額報酬」事件