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「日産の未来」──フランス人識者はどう見る?

2019年01月07日(月)17時25分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

――日産がガバナンスを優先させたことをどう見るか。

今回の事件はゴーン氏だけでなく、日産の監査と統制にも責任があった。そのため今はガバナンスを整える時期であり、日産のこの決断は論理的だ。

――ルノーの次期CEO任命の行方はどうなるのか。

取締役会が会長を選ぶという、ごく一般的なプロセスが重視されるだろう。ただ疑問は「いつCEOが任命されるか」だ。現状況を考えると、2つの難点がある。

1つ目はゴーン氏の判決が下る前にCEOを任命するのは、難しいということ。法的判決が下っていない限り、推定無罪であるからだ。2つ目は、今回の事件により、ゴーン氏が会長職に復帰するのは難しいという点だ。

「不確か」な状態は企業、従業員、取引先にとってもよくない。そのため、ルノーはゴーン氏逮捕の直後にCEO代理を迅速に、ゴーン氏の有罪判決が下される前に決めた。もちろん早く行動をするべきだが、司法の時計の針の進み方は、ビジネスでの時間の流れとは異なる。ゴーン氏が辞任しない限り、ルノー次期CEOの任命は異例かつ複雑、長い時間を要する可能性がある。また、辞任すれば、ゴーン氏自身の保釈にも有力となる。

――日産の次期会長任命の行方をどう見るか。

一般的なプロセスが尊重されるべきという点はルノーと同じだが、そう簡単にはいかないだろう。アライアンスからの課題、両社や国の利益などが絡んでくるからだ。この複雑な事件のもと、少なくとも下記の5点を考慮することができる。

1.ゴーン氏主導のもと成立したアライアンスの成立と事業の復興。1999年にルノーから50億ユーロを出資し、日産の危機的状況を救った目覚ましい努力。

2.ゴーン氏はアライアンスを統制し続けるために、自身を「中枢」の立場に構築し、自らを「必要不可欠」な存在に仕立て上げた。

マクロン大統領は、財務相だった頃に、新しい法律で国の株主としての議決権を2倍にし、仏政府のルノーにおける影響力を増した。そして、ルノーと日産の統合を進めようとした。これらは、間接的にゴーン氏の権力を弱めることが目的であった。しかし、このフランス政府の介入を日本人は快く思わなかったようだ。

3.ゴーン氏は自らを無敵で法にも勝ると信じていたという仮説がある。より利益を求める欲が、一線を超えることになった。これが日本の司法が疑惑を抱いている点だ。

4. 今回の度重なる逮捕劇や裏切りが、ルノー・日産合併の可能性をなくすことや、ゴーン氏への復讐だったという説。それらが策略であれば、ゴーン氏が失墜したことで、成功したとみられる。

5.現在のアライアンスの構成と将来の展望を見据えた、日仏の国益。

現段階では、長年忍耐強く作り上げられたアライアンスを守ることが大切だ。連合が壊れることは、誰の利益にもならない。

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