西太后の美と健康を支えた秘伝処方がドラッグストアで買える? 薬剤師が解説
スローエイジングという考えの基本
東洋医学の考えでは若々しさを保つ元は「腎精」にあるとされている。中国の古い医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」によると、「腎精」は女性の場合28歳でピークを迎えて徐々に減少すると記されている。スローエイジングの考えの基本は、この「腎精」を年相応に保てるようにすることにある。
「腎精」は、言葉通り「腎」に蓄えられた「精」のこと。東洋医学において「腎」は、私たちが慣れ親しんでいる西洋医学でいう腎臓の働きにプラスして「老いと成長」をコントロールしていると考えられている。また、その人それぞれの体質を決める大元と言える物質が「腎精」だ。なお、「精」とは東洋医学において、人体を構成している基本的物質「気・血・津液」の元となり、生命活動を支えるものと考えられている。
「腎精」は生まれたときに両親から受け継いだ「先天の精」と、その人が食べたものから作られた「後天の精」によって構成される。
たとえ「先天の精」が良い状態で生まれてきても不摂生をしたら「腎精」は急速に失われる。そして、たちまち老化が進み、体が弱々しくなる。「腎精」を良好な状態に保つにはバランスの良い食事を心がけて「後天の精」を補うことが大切だ。
「スローエイジングを実践するには『後天の精』を作るための栄養を十分に取り入れることが大切です。そのためには『脾』、すなわち西洋医学でいう胃腸のはたらきを整えることが大前提となります」(猪越博士)
胃腸のはたらきを高める処方が西太后の秘伝処方に残されているという。「扶元和中膏(ふげんわちゅうこう)」だ。
「『中』とは胃腸のこと。胃と腸を和して、生きるエネルギーの源となる『元気』を養う処方です。この処方に近いドラッグストアなどで手に入れやすい漢方薬には『六君子湯(りっくんしとう)』が挙げられます」(猪越博士)
「六君子湯」に比べて手に入りにくいが「香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)」という処方もある。「六君子湯」に「木香(もっこう)」「縮砂(しゅくしゃ)」などの香りのよい生薬が加えられた処方だ。それらの生薬は、体にたまった余計な水分を取り除くのに役立つ。たとえば「むくみやすい」「舌に白い苔がたくさんつく」といった症状が見られる人はこちらを選ぶと良いだろう。
西太后のスローエイジングの要となった処方とは
ストレスによる「肝」へのダメージと、老いと若々しさを司る「腎」へのダメージを手当てする処方も西太后のカルテには記されていた。「長春益寿丹(ちょうしゅんえきじゅたん)」だ。「長春益寿丹(ちょうしゅんえきじゅたん)」だ。スローエイジングの要である「腎」を補強するのに優れた処方である。
これに近い処方でドラッグストアや薬店で手に入れやすい漢方薬としては「八味地黄丸(はちみじおうがん)」が挙げられる。
「八味地黄丸」の処方には「附子(ぶし)」「桂枝(けいし)」という体を温める生薬が含まれている。「八味地黄丸」からこの2つの生薬を除いた漢方薬が「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」。「六味地黄丸」に、血液に栄養を与えて肝臓を守る「枸杞(くこ)」と、目の充血やチカチカするなどの眼の炎症を解消する「菊花(きくか)」の生薬が加わった処方が「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」だ。
「パソコンを使うような目を酷使する仕事をして目の疲れを感じる方の場合は『杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)』を選ぶとよいでしょう。西太后は菊の花も、料理に使ったり、お茶にして飲んでいたらしいですよ」(猪越博士)
症状にあわせて選ぶと良いだろう。
年を重ねると現れるちょっとした不調や、気分が下がる老化の兆し。なんとなく不調と感じている方は、西太后の秘伝処方を使ったセルフケアを試してみると良いかもしれない。
参考文献:
『西太后の不老術』著:宮原桂 新潮選書
『「いつもなんか不調」がすっと消える手当て』著:猪越英明 サンマーク出版
[執筆者]
高垣育
薬剤師ライター。2001年薬剤師免許を取得。調剤薬局、医療専門広告代理店等の勤務を経て2012年にフリーランスライターとして独立。2017年国際中医専門員の認定を受ける。毎週100人ほどの患者さんと対話する薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書「犬の介護に役立つ本」(山と渓谷社)の出版を契機に「人」だけではなく「動物」の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行っている。