トランプ後継への隠し切れない野心、元国連大使ニッキー・ヘイリー
NIKKI HALEY'S BIG CHANCE
保守系シンクタンク「民主主義防衛財団」のクリフォード・メイ理事長に言わせると、ヘイリーは「まっとうな新トランプ主義者」だ。トランプの掲げた主張は踏襲しつつ、彼の乱暴な振る舞いは(いわば、材木にやすりをかけて滑らかにするように)改めていく。これならトランプの好戦的な姿勢に反発していた人たちも戻ってくるかもしれない。
ただしヘイリーには、決定的にトランプと異なる点もある。例えば人種差別の問題だ。彼女の友人たちが好んで口にするのは、地元サウスカロライナ州のチャールストンにあるエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会で白人至上主義者が9人の黒人信者を殺害した2015年の事件だ。
これにショックを受けたヘイリー(当時は州知事)は、州都コロンビアの州議会議事堂前に昔から掲げられていた南部連合旗(南北戦争で南軍が使用した旗)を降ろそうと提案した。もちろん、有権者からの反発や抵抗が大きいことは予想できた。でもそれを承知で、ヘイリーは超党派の支持を集めるために奔走し、結果を出したのだった。
同州選出のティム・スコット上院議員は、そのとき超党派の合意ができた経緯についてこう語っている。「あのときは本当に優しい心をもって、弱者の立場を代弁する必要があった。でも彼女はそれを、見事にやってのけた」
南部連合旗の撤去に、アフリカ系アメリカ人や民主党の州議会議員が賛成するのは当然だった。しかしヘイリーは州共和党の大物ポール・サーモンド(超右派として鳴らした故ストロム・サーモンド元上院議員の息子)らも口説き落とし、超党派の合意を取り付けることに成功した。
少なからぬサウスカロライナ州民があの旗に一種の「敬意」を抱いていることは、彼女も承知していた。しかし彼女は、あれがアメリカ史における最も醜悪な部分の象徴であることを理解させた。そしてついに旗が降ろされた日、ヘイリーは言ったものだ。「わが州にとって、今日は素晴らしい一日となった」
「元ボス」と戦う覚悟もある
そうした判断、そうした振る舞いのできる資質こそ、2024年の共和党大統領候補には求められる──少なくともヘイリーの同志たちはそう思っている。
彼女なら「トランプ的な政策を、トランプ的な混乱なしで実現できる」。ヘイリーと懇意なある上院議員は、昨秋の選挙前からそう言っていた。「州知事として冷静かつ現実的な実務能力を発揮した実績があり、国連大使として外交の経験も積んだ。しかも移民の子で、全てがエレガントだ。トランプJr.であれ誰であれ、これだけ条件のそろった彼女に勝てるはずがない」