ヒラリーの見えない本音
多くの正しい行いがあれば、1つの間違いは許されるとクリントンは考えているのだろう。イラク戦争に賛成したことを繰り返し反省するが、ほかの問題ではいつも自分が正しいようだ。
共和党の副大統領候補サラ・ペイリンを攻撃するなとオバマ陣営に訴えたし、「パレスチナを国家として認めるべきだと早くから主張してきた」。「エジプトがムバラク政権崩壊後に深刻な混乱に直面したとき、阻もうとしたのは自分だけだった」し、アラブの春以前に、中東諸国の指導者たちに「改革を受け入れなければ中東全体が砂に沈む」と警告もしたと書いている。
ムバラク失脚時には「ムスリム同胞団か軍に、みすみす政権を与えることになるのではないかと恐れた」と振り返る。そして「実際そのとおりになった」。この件では、世界の指導者たちも彼女の分析に賛同したという。
回顧録に記されているエピソードは、物事が彼女の鋭い洞察どおりになったものと、彼女の深い知恵だけが好ましい結果を生んだものばかりだ。
例えば、11年に米軍機の誤爆でパキスタン兵24人が死亡した事件。「一部の大統領側近は、(翌年の)大統領選を前に、謝罪することに拒絶反応を見せた」。対するクリントンは、米軍を中心とするアフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)の補給路を確保する上でパキスタン国民の感情を和らげることが重要だと主張。そして、謝罪が補給路再開への道を開くことになったというわけだ。
この本で彼女が言う「困難な選択」とは、明確な正解が見えないなかで、さまざまな利害が複雑に入り組んだ状況に対処した経験のことらしい。例えば、シリア情勢は「厄介な問題」だったと書いている。