ヒラリーの見えない本音
無難な指導者ではあるが
困難な選択で失敗したとき、その経験から何を学んだのかは記していない。02年にイラク戦争に賛成したこと、12年にリビアのベンガジで起きた米領事館襲撃事件で死者を出したこと、11〜12年のイラン民主化運動をもっと支援しなかったことへの後悔は述べているが、反省点を深く分析した記述はない。
「友人が教えてくれないような教訓を、批判者が教えてくれることもある。批判されたときは......学ぶべきことがないかと考えるようにしている」とは書いているものの、それを実践した例は記されていない。
16年の大統領選が近づき、クリントンの再出馬が取り沙汰されるなか、12年のベンガジ事件が再び注目を集めている。当時、この事件に関して米政府が判断ミスの隠蔽を行い、それに彼女も関わっていたという疑惑が指摘されているのだ。
クリントンは2章をリビア情勢に割き、欧米連合国の結束を維持することがいかに難しかったかを書いている。その半面、ベンガジ事件については、事の経緯を記し、これまでの弁明を繰り返しているにすぎない。
この本は、勤勉できちょうめんな公僕というヒラリー・クリントン像を提示している。複雑な世界に対して不安を抱く有権者にとって、彼女は無難な指導者といえるだろう。
しかし、大統領選の行方を左右する主な要因は経済だ。クリントンは本の最後で、現在のアメリカが直面する経済的課題を挙げている。学生ローン問題、労働市場の不振、中流層の苦境などだ。本人が望めば、大統領選の候補者としてこれらの問題を論じる機会が訪れる。
「16年に、私は大統領選に名乗りを上げるのか?」と、クリントンは書いている。「まだ決めていない──それが答えだ」
実際のところ、当たり障りのない内容の長大な回顧録をこの時期に出版したことからすれば、立候補するつもりなのだろう。もし出馬を見送るなら、後でエピローグを書き加えて本音を聞かせてほしい気もする。
© 2014, Slate
[2014年6月24日号掲載]