ヒラリーの見えない本音
オバマとの「初デート」
ジョージ・W・ブッシュ前大統領の忠実な側近だったコンドリーザ・ライス元国務長官さえ、回顧録では対立についてもっと正直に語っていた。例えば国家安全保障問題担当大統領補佐官として、イラクの戦後政策に集中して取り組むべきだと主張したときのこと。会議の冒頭でブッシュが「コンディが話したいと言ってたことだが......」と告げた途端、「将校たちの反応から、軍はもうこの問題を深刻に捉えていないことが分かった」と振り返っている。
クリントンの回想録にはそんな率直さがない。無人航空機による爆撃に関してレオン・パネッタ国防長官と怒鳴り合ったと書いているが、どんな経緯でそうなったかは説明していない。
コンゴ(旧ザイール)を訪問中、学生の質問が間違って通訳され、夫の意見を聞かれたと勘違いして怒ったエピソードは登場する。「私が国務長官です。だから私の意見を言います」。質問した若者は、オバマの意見について尋ねていたのだが。
回顧録はどこまでも落ち着き、自信に満ちた調子が続く。クリントンが、何かのきっかけで切れるところなど想像するのも難しい。ここで語られるのは08年の大統領選予備選の後から。彼女が支持者に申し訳ないと感じる一方で、オバマとの関係を修復したいと切望していた頃だ。
オバマとの関係は、試合後に挨拶するフットボールのコーチ同士のように友好的だったとヒラリーは書いている。オバマ勝利に終わった予備選後に会った2人は、初めてデートするティーンエージャーみたいにぎこちなかったという。
自分はいつも正しかった
当初は自分の取り巻きと、大統領であるオバマの取り巻きの間に緊張があったことを認めているが、国務省と国家安全保障会議との緊張関係についてはほのめかすだけ。オバマの側近は外交上の決断をする際も国内政治への影響を考え過ぎる、と書いているものの、それほど辛辣な物言いではない。
シリアの反政府勢力に対して武器援助を行うか、エジプトのホスニ・ムバラク大統領に圧力をかけるかなど、重要な問題でオバマと対立したこともある。それでも彼女は恨んでいない。オバマが別の道を選んだのは、あらゆる複雑な事情を考慮に入れた合理的な決断だとしている。