早死にするのはどのスポーツ?
選手の人種・民族構成も死亡率に影響しているかもしれない。アメリカの白人男性の平均寿命は黒人男性より6年長い。プロアスリートでは、この差は縮まるが、完全には解消されない。
イギリスの研究チームが46〜05年に現役だったNBA(全米プロバスケットボール協会)の白人と黒人の選手を調べたデータがある。全体として非アスリートよりも約4・5年長生きだったが、白人選手のほうが黒人選手より1.5年長生きだった。所得格差を調整した後でも、この差は残った。
とはいえ、人種が重要な要因ならバーンウェルの調査結果は逆転するはずだ。スポーツにおける多様性・倫理研究所によれば、NFL選手の67%は黒人、31%は白人だ。対してメジャーリーグでは黒人9%、白人61%。またNFL選手には中南米系が1%しかいないが、メジャーリーガーでは27%を占める。中南米系の男性はアフリカ系や白人の男性より長寿とされるから、野球選手のほうが一層長生きできてもいいはずだ。
ファンは安心していい
アスリートの平均寿命が完全に人種で決まるなら、野球選手がずばぬけて長生きで、バスケットボールの選手が一番短命ということになる。
人種以外の社会経済的な要因も寿命に影響する可能性がある。07年に発表されたベビーブーム世代のメジャーリーガーの寿命を調べたデータによると、全体として元選手は一般男性よりも長生きだが、平均寿命は教育レベルに大きく左右される。大学に進まなかった元選手の死亡率は、4年制の大学を卒業した元選手の2倍に達していた。
一般に、アメフト選手のほうが野球選手よりも教育程度は高い。ただし、大した差ではない。メジャーリーグから指名された若者の35〜56%は高校卒業後すぐにプロ入りする。一方、NFL選手のおよそ半数は大学を出てからプロになる。
バーンウェルの調査結果を説明できる要因はほかにいくつもある。バーンウェルは同じ年齢層ではなく、ある時期に現役だった人たちの死亡率を比較している。プロ野球選手のほうが平均してNFLの選手よりも年齢が高いので、元野球選手の死亡率が高くなったのは当然といえるかもしれない。また野球とフットボールでは、トレーニング方法も筋肉増強剤の使用率も、引退後の医療保険のオプションも違う。
いずれにせよ、こうしたデータでは脳の損傷の影響も、野球やフットボールが危険なスポーツかどうかもはっきりしない。元アメフト選手のパーキンソン病やアルツハイマー病、認知症の発症率を調べたこれまでのデータでは、リスクが高いとも低いとも言い切れず、脳損傷の長期的な影響についても明確なデータはない。
NIOSHの調査報告は、元NFL選手の個々の死因を分析しているが、サンプル数が少なく、脳損傷に関連した病気のリスクが高いかどうかは判定できない。
それでも、NIOSHのデータは一定の安心材料にはなる。フットボールは危険を伴うスポーツだが、元プロ選手は一般の人より長生きできる確率が高いということだ。バーンウェルは元選手と一般人を比較しても参考にならないと言うが、ファンがほっと胸をなで下ろすには十分だろう。
© 2012, Slate
[2012年9月12日号掲載]