ティーパーティーのアブナイ外交政策
アメリカ中間選挙の行方を左右する急進保守派の頭の中は、国内と神様のことでいっぱい
正気じゃない! ペイリンらをヒトラーになぞらえて抗議するプラカード(10月30日、ワシントン) Jonathan Ernst-Reuters
ヨーロッパを本拠とする記者の私にとって、アメリカの草の根保守連合ティーパーティーの外交政策を説明するのは簡単なこと。「政策なんてない」だ。アメリカの東海岸から西海岸、さらに中部も何カ所か回った末の結論だ。
ティーパーティーの世界観とは? 不思議の国のアリスがウサギの穴に落ち、いかれ帽子屋とのお茶会に出て、「首をちょん切れ!」と叫ぶ気まぐれな女王に出会うようなものだ。
ここテキサス州選出の共和党保守派のロン・ポール下院議員は、米外交専門誌フォーリン・ポリシーで1つの外交方針をぶち上げた。イラクとアフガニスタンでの戦争を終わらせることが、ティーパーティーに繁栄をもたらすというものだ。
ポールいわく「諸外国との交流は民間レベルに任せ、政府は介入しないという伝統的なアメリカの外交政策に立ち戻る。それが我々の道徳面・財政面での健全さを取り戻す唯一の手段だ」
これはティーパーティーの基本的信条と一致する。彼らの主張とは、政府は国民の生活に口出しすべきでない、財政支出を減らしてこれ以上増税するなというもの。だが外交政策となると、ティーパーティーの意見は一枚岩ではない。
ティーパーティーの広告塔、サラ・ペイリン前アラスカ州知事は、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の攻撃的な外交政策を支持し、軍事予算の削減に反対する。彼女は、口うるさい外国人には物事の道理を分からせてやるべきだと主張する。
ほかのティーパーティー指導者たちといえば、分かりやすい言葉を並べ立てるのに終始している。彼らを支持する一般大衆はどうせ小難しい話は嫌いだからだ。
地球環境破壊も神の思し召し
ニューヨーク・タイムズは「曖昧なティーパーティーの外交政策」という10月21日付け記事の中で、ティーパーティーの主要グループ「フリーダムワークス」を率いるディック・アーミー元下院議員(共和党)に、ティーパーティーに外交政策はあるのかと尋ねている。アーミーの答えは、「ないだろうな」だった。
テキサス州では「ティー(お茶)」が、地ビールのローンスターと同じくらい大人気。それを考えたら、「曖昧」などといって済ませている場合ではない。私は今回、テキサス大学でジャーナリズムを教える3人の教授とランチをしたが、外交経験が豊富な彼らにティーパーティーは世界をどう見ているのかと聞くと、3人とも鼻で笑ってみせた。
選挙前にはアメリカ中がそうなるが、テキサスでも国境より外の問題に考えをめぐらせる人はほとんどいない。考えるとしても、自分の州のちょっと先くらいだ。テキサスのライブハウスで、あるミュージシャンは「ベイカーズフィールド(カリフォルニア州の都市)」という曲を熱唱した後、こうジョークを飛ばした。「テキサス州法に定められているんだ。カリフォルニアの曲を歌ったら、次の2曲はテキサスのものでないといけないってね」。そこで彼が歌ったのは「アビリーン(テキサス州の都市)」だった。
しかし米国内でも国外でも、アメリカの今後を懸念する人は多い――世界中の様々な問題をよそに、アメリカは自国の問題にしか関心を示さなくなるのではないか。パレスチナやパキスタンの紛争、世界経済の構造変化、さらに温暖化などの環境問題はティーパーティーの優先事項とはかけ離れている。ティーパーティーにとって、こうした問題を否定することは「信念」と言ってもいい。