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米政治アジア外交より医療保険、オバマの決断
インドネシア、オーストラリアへの訪問を再延期したオバマは、医療保険制度改革法案の可決に全力をかける
歓迎されざる客? オバマ訪問を2週間後に控え、ジャカルタの議事堂前では学生がオバマへの抗議デモを行なった(3月5日) Dadang Tri-Reuters
3月21〜26日に予定されていたバラク・オバマ大統領のインドネシアとオーストラリア訪問が、またしても延期になった。両国への訪問は既に1度延期されているが、審議中の医療保険制度改革法案の行方が定まらないなか、今度は6月まで延期されることになった。
「今年は中間選挙が行われる年だ。医療保険制度改革法案の審議が大詰めを迎えようとしているなか、大統領に外国を訪問している余裕などない」と、新米安全保障研究センター(CNAS)・アジアプログラム責任者のパトリック・クローニンは言う。「今も国内政治が外交より重要視されていることがこれで良く分かる」
インドネシア・オーストラリア歴訪は当初3月18日に出発予定だったが、今週末に医療保険制度改革法案が下院で採決されることを見込んで3日間延期。
しかし共和党が上下両院で妨害工作を行うことが予想されるなか、オバマは頭を抱えていた。調整が難航すれば大統領の権威が必要になるかもしれない。外国にいながらその存在感を示せるだろうか、と。
オバマは議会民主党の指導部たちにも、アジア訪問の重要性を繰り返し強調してきた。特にインドネシア国民にとっては、オバマの訪問は最も重要で名誉なこと。オバマが幼少時代をインドネシアで過ごしたことを考えると、「里帰り」のような意味合いもある。訪問を延期すれば、アメリカのアジア政策に波及的な影響を及ぼしかねない。
「今回の延期は、アジア太平洋地域への関与にこだわり続けたオバマ政権の挫折を意味する」とクローニンは言う。「オバマ政権はこれまで、ブッシュ前政権がイラクに注視し過ぎたせいで、東アジアへの関与が著しく損なわれたと批判してきた。だからこそオバマは猛スピードで外国訪問をこなし、アジアでの存在感をアピールしてきた」
それでもインドネシア国民は許してくれる
「この数年間、いろいろな意味でアメリカはアジアから遠ざかっていた。現在は指導力を回復しようと努めている」と、3月15日に国家安全保障会議(NSC)の戦略広報担当副補佐官ベン・ローズは語った。ローズは今回のアジア訪問を、「世界で極めて重要なこの地域でアメリカの国益を前進させる重要な機会」と位置付けた。
訪問延期は必ずしもマイナスではない。オバマ政権は、インドネシアとオーストラリア両国との重要な課題について検討する時間を持てるだろう。短い日程に議題を詰め込むよりも6月に延期することで余裕を持って協議できると、クローニンは指摘する。
前世界銀行総裁で駐インドネシア米大使だったこともあるポール・ウォルフォウィッツによれば、83年にロナルド・レーガン元大統領がインドネシア訪問を延期したときには、訪問が実現するまでに3年かかった。遠くない将来に再訪問の調整ができる限り、インドネシア国民はオバマを許すだろうとウォルフォウィッツは語る。
「インドネシア国民が今回のオバマ訪問をどれだけ心待ちにしているかは、言葉では言い表せない」とウォルフォウィッツは言う。「オバマがインドネシアを訪問した瞬間、彼らは延期のことなどすべて忘れてしまうはずだ」
ロバート・ギブス大統領報道官は18日、今回の訪問延期についてオバマは「残念に」思っており、訪問先の首脳に「医療保険制度は極めて重要な優先事項」だと伝えたと述べた。
ホワイトハウス側は数日間だけ延期するよう調整を試みたが、スケジュール的に不可能だった。ギブスによれば、「大統領は、いま自分がいるべき場所はワシントンで、法案採択を見届けるべきだと確信している」。
Reprinted with permission from "The Cable", 18/03/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.