国民を欺くオバマのトリック
「医療費を抑制して財政赤字を削減する」というばら色の未来を語るオバマだが、現実は正反対
Brian Snyder-Reuters
「医療保険改革」という誤った名称で呼ばれる一連の騒動は、まったくばかげている。
高齢化と制御不能な医療費のせいで、アメリカが今後ずっと巨額の財政赤字に苦しむ見込みであることは周知の事実だ。壊滅的な経済危機から徐々に立ち直りはじめたアメリカ社会には、あるコンセンサスが広がっている。
それは、景気回復のブレーキとなる急激な赤字削減は避けるべきだが、将来の巨額赤字を回避するために医療費を抑制し、財政支出を抑える長期的な政策を取るべきだというもの。バラク・オバマ大統領と経済に詳しい側近たちも、口をそろえてそう主張する。
ところが実際には、オバマ政権は正反対の方向へ向かっている。彼らが進める医療保険制度の全面的な見直しは、ほぼ確実に事態をさらに悪化させる。
保険加入者と彼らが享受するサービスを際限なく増やす改革によって、財政赤字は拡大する一方、医療費の抑制は期待できない。オバマ陣営は自身の露骨な言動不一致を意に介していないようだ。しかし彼らは矛盾する複数の目標を達成するために、自身を欺き、国民に嘘をついている。
改革がもたらすメリットは限定的
医療保険改革を推進する動きは、この改革が道徳的に正しいという誤解を前提としている。あらゆる人が基本的な医療を受けられるようにすべきだという考え方が、賛同を集めるのは理解できる。確かに、誰もが医療保険に加入できれば理想的だから、そうした目標は公益にかなう崇高な理念とみられやすい。
だが、この前提は2つの理由で間違っている。まず、アメリカが取り組むべき目標はほかにもたくさんある(将来の経済危機を防ぎ、巨額の財政赤字や重税が経済と若者に与える打撃を最小限にすることなど)。医療保険改革を推進することで、こうした目標が犠牲になる。
もう一つの理由は、「改革」のメリットが誇張されすぎていること。無保険になる恐怖から多くのアメリカ人が解放されるのは確かだが、もっと安上がりな手法でそうした不安を軽減することは可能だ。
しかも、現在保険に加入していない人が被る恩恵は微々たるものだ。彼らはすでにかなりの医療サービスを受けており、新制度によってもたらされるメリットは概して限られている。
改革案を売り込むためのご都合主義の嘘を目の当たりにすると、医療保険改革が道義的に優れているという見せ掛けなど吹き飛んでしまう。オバマは財政赤字の増大につながるような法案には署名しないと語っているが、その言葉を実行するには、コストに関する条項を法案から外すしかない。