国民を欺くオバマのトリック
たとえば医師の間では長年、メディケア(高齢者医療保険制度)加入者への医療行為に支払われる医療費が低すぎるという不満がある。議会予算局(CBO)によると、この仕組みを変えてメディケアの医療費を増額すれば、10年で2100億ドルのコスト増になる。
当初の法案にはこの増額分に関する条項が含まれていたが、その後別の法案に回された。だが増額分の財源はなく、財政赤字が増えるのは必至だ。
医療費の抑制効果も疑わしい
コストを隠蔽する手口はほかにもある。書類上は可能だが、実現する見込みはないコスト削減を当てにする方法だ。
たとえば上院の法案では、メディケアが医療機関に支払う医療費を10年間で2280億ドル削減するとされている。だが議会は過去にもしばしば、いったん決定した支払額削減を、医療機関の圧力で撤回してきた。
改革によって「財務責任」を果たすという主張は、「過去の歴史をみればまったく非現実的」だと、会計検査院(GAO)の元院長で現在はピーター・G・ピーターソン財団の最高経営責任者(CEO)であるデービッド・ウォーカーは言う。
国家全体の医療費の増加ペースを遅らせられるというオバマ陣営の主張も、国民を欺いている。
コンサルティング企業のリューイングループによる2件の研究と、公的機関のメディケア&メディケイドセンターによる1件の研究では、議会が検討している各種改革案を実行した場合、何もしなかった場合より医療費は増大するという結果が出た。
今後10年間の予想増加額はそれぞれ7500億ドル、5250億ドル、1140億ドル。新たな保険加入者による医療サービスの利用が増えるため、不十分だったり、実験的な位置づけにすぎない各種の医療費抑制策(疾病別の「定額制」や治療法別に効果を測定する「比較効果研究」、医療訴訟の制限など)の効果が吹き飛んでしまうからだ。
こうした予測が間違っている可能性は否定しないが、オバマ政権のご都合主義の説明よりは説得力がある。
オバマの構想はコスト管理をないがしろにしている点で「包括的」でない。そして、もしこの取り組みによって将来の財政危機が悪化するのなら、それは「改革」ではない。自業自得の負傷だ。