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「非核ICBM」は米軍の切り札になるか

世界中どこでも1時間以内に攻撃可能な大陸間弾道ミサイルで、オバマの核削減政策にも合致。ただし兵器開発競争を招く危険性もある

2009年11月5日(木)16時45分
ベンジャミン・サザーランド

核抜き 国防総省は非核ICBMの2年以内の実用化を目指している(写真は核弾頭搭載型の「ピースキーパー」) U.S. Air Force photo

 アメリカ政府は今後、戦艦や航空機、兵員を敵地近くに展開する必要性を減らす一方で、世界各地の敵や脅威に対していかに軍事的圧力を加えていくのか。

 その切り札と期待される新型兵器は、バラク・オバマ大統領の核兵器削減計画にも重要な役割を果たすかもしれない。

■構想 国防総省は現在、核弾頭を搭載しない大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発中で、2年以内の実用化を目指している。弾頭には通常の爆薬を搭載し、地球上のほとんどの地点に1時間以内に命中させることができる。

 ICBMは発射されると大気圏外を飛行する。このため、たいていのレーダーシステムからは捕捉不可能であるとともに、通過国から領空侵犯に問われることもない。

 こうした能力の高さから、アメリカ政府は新型ICBMに「かなりの予算を投じる用意がある」と、今年引退するまで空軍の技術部門トップを務めたマーク・ルイスは言う。

■背景 ある種の攻撃においては、速度や防空能力、射程の問題から軍用機や巡航ミサイルは力不足だ。

 たとえば1998年、アラビア海から発射されたアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」は、アフガニスタンのアルカイダの訓練キャンプに命中した。だが、着弾したときにはすでにウサマ・ビンラディンは逃げていたと、当時テロ対策についてビル・クリントン大統領の顧問を務めていたリチャード・クラークは言う。

 現代でも巡航ミサイルは最高速度が音速の3倍に届かないのに対し、ICBMの飛行速度は音速の15倍を超える。

 また米陸空海軍はそれぞれ、独自の「世界規模の迅速攻撃」システムを提案している。それによれば、飛行中のミサイル制御能力を改善するといった目的のために最新技術も一部では必要だということだ。

 だがICBMは実用化されてから数十年も経っており、「もはや技術的な高いハードルは残っていない」と、ワシントンにある軍備管理協会の研究主任トム・コリーナは言う。

 コンサルタント会社ストラトフォーの軍事専門家ネーサン・ヒューズによれば、来年に予定される国防総省の「4年ごとの国防政策見直し(QDR)」では、非核ICBMにさらに重点を置くことになるとみられる。ジェームズ・カートライト統合参謀本部副議長も熱心な推進派だ。

 ヨーロッパにおけるミサイル防衛(MD)ではロシアの反発を受けて計画を見直したオバマ政権だが、新型ICBMの開発中止を求めるロシアの呼びかけには抵抗している。

■結論 新型ICBMは、核搭載型のICBMと識別が可能なように設計されるだろう。それでもロシアなどの大国が、近隣国への非核ICBMによる攻撃を自国への核攻撃だと勘違いする危険性は残っている。

 新型ICBMをめぐる技術革新が新たな兵器開発競争に火をつける可能性もある。オバマ政権はこうした副作用がアメリカにとって大きな障害にならないかどうか、判断を迫られることになるだろう。

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