「神童」の能力だが、認知症の老人でもある...AIが人間の医師には「絶対勝てない」理由
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ダヤンらの研究の詳細は、世界的な権威のある医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)の昨年12月号に掲載された。通常は厳格な査読を受けた研究論文しか掲載しない学術誌だが、クリスマスシーズンは独創的で軽いテーマの研究が取り上げられることが多い。
実際、この研究には、おふざけ的な側面があったとダヤンは認める。科学的に考えれば、AIモデルの有効性を人間の認知機能検査法で調べるのはおかしい。ただ、この結果がAIと人間の医師の違いや、それぞれの得意とする役割を理解するきっかけになればと、彼は期待する。
例えば、認知症の診断を下すときは視空間認知機能が重要な要素になるが、AIはもっぱら被験者の回答内容に注目する。これに対して人間の医師は、身ぶり手ぶりや、声の抑揚など、「どのように回答するか」にも注目するとダヤンは語る。
また、医師が患者に示す共感は、治療成績に大きな影響を与えることが知られている。昨年のある研究では、慢性痛を持つ人にとって医師が示す共感は、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)を服用したり腰椎手術を受けたりするよりも、痛みの緩和との関連性が強いことが分かった。
どんなに生成AIが医師免許試験で高得点をマークしても、実際の治療では「依然として(患者と医師の)人間同士の交流が非常に重要になる場合があることを、私たちは示したかった」と、ダヤンは語る。
ダヤンらの研究に対して、医師やヘルスケア企業の幹部はさまざまな反応を見せた。