最新記事
AI

生成AIに関する、楽観論でも悲観論でもない「真に問うべき質問」

ISSUES 2024: ARTIFICIAL INTELLIGENCE

2023年12月27日(水)18時45分
レフィク・アナドル(メディアアーティスト)、カレル・コマーレク(実業家)

現代のAIモデルは、膨大なデータを学習して構築される。それが何百時間分ものクラシック音楽であれ、より定量的なデータであれ、AIのアウトプットを有意義で知的なものにするのは、人間のインプットなのだ。この人間とテクノロジーの共生関係を維持したとき初めて、AIの進歩を、人間にメリットをもたらすものにできる。

AIは経済活動の効率化から、世界中で評価されるアート作品の制作まで、使う人の目的達成を助けるユニークな能力を持つ。デジタル化が進む世界でAIの役割が拡大するのは間違いないが、そこで必要になるのは人間とマシンの両方を尊重し、高め、最適化する共存戦略だ。

『ドボルザーク・ドリームズ』は、こうした概念を体現するものだ。人間の独創性と優れた表現を中核に据えて、AIで偉大な音楽家のレガシーを抽出し、合成し、拡張した。その結果生まれたインスタレーションは、マシンの「ハルシネーション(もっともらしいウソ)」ではなく、人間とマシンの共進化を示している。

『ドボルザーク・ドリームズ』を実現するためには、人間対人間、人間対マシンといった議論をひとまず忘れる必要があった。だがそのおかげで、テクノロジーの進歩にも、現代アートの発展にも寄与できた。いま私たちに必要とされているのはテクノロジーの革命ではなく、テクノロジーに対する人間の態度の革命だ。

AIの可能性を断固信じる必要はないし、断固批判する必要もない。人間の進歩は、人間同士、そして人間とマシンの協働から生まれる。そして未来に対するオープンな姿勢と、歴史を評価する姿勢を組み合わせるという意味では、アーティストも投資家もイノベーターも、AI革命に等しい役割を担っている。

©Project Syndicate

231226P50_IS_KAO_21.jpgレフィク・アナドル
REFIK ANADOL
メディアアーティスト。カリフォルニア大学ロサンゼルス校デザインメディアアート学部で教鞭も執る。

231226P50_IS_KAO_24.jpgカレル・コマーレク
KAREL KOMÁREK
チェコの実業家。投資会社KKCGの創業者で、ドボルザーク・プラハ国際音楽祭の共同創始者。

【関連記事】
「AIが人間をロックし正確に狙う機関銃...」イスラエルが開発、パレスチナ難民キャンプに配備した
AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中