野心的で、狡猾で、マキャベリスト的? オープンAI「お家騒動」で垣間見えたサム・アルトマンの本性...「効果的利他主義」の顔は見えず
AN AWKWARD RETURN
「全人類の利益」を目指すべきか
21日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)は次の3点を伝えている。その1、「アルトマン氏は理事会に対して常に正直ではない」とサツキバーは感じていた。その2、オープンAIの共同創設者でマイクロソフトの取締役でもあるリード・ホフマンらが今年に入って理事を辞任したことを受け、後任選びで経営陣と理事会がもめていた。その3、アルトマンは理事の1人であるトナーと激しく対立していた。
特に気になるのはその3だ。トナーは根っからの効果的利他主義者として知られる。NYTの報道によれば、アルトマンはトナーが同僚と共に発表した論文について数週間前に彼女に抗議したという。この論文はトナーが現在のフルタイムの勤務先であるジョージタウン大学安全保障・新興技術研究センターのためにまとめたもの。NYTはアルトマンが同僚たちに宛てたメールを根拠に「アルトマン氏はこの論文がAIの安全性確保に対するオープンAIの対策を批判し、今ではその最大のライバル企業となったアンソロピック社の方式を称賛していると解釈して不満に思っていた」と伝えている。
事情通ならお分かりだろうが、アンソロピックはAIの開発方式をめぐりアルトマンと対立したオープンAIの元幹部らが、古巣に対抗して2021年に設立した会社である。
アルトマンにすれば、トナーの論文は自社をおとしめ、ライバルを持ち上げる「有害文書」だ。発表のタイミングも悪かった。オープンAIは今や連邦当局の調査対象となり、チャットGPTの訓練に使用した大量のデータを細かく詮索されている。
トナーは研究者として当然の議論をしただけだと論文を擁護したが、アルトマンは「理事会の一員がわずかでも批判めいた発信をするのは由々しき事態」だと主張。経営陣の1人であるサツキバーはトナーを理事会から追い出すことも考えたが、結局はトナー側に付いた。
というわけで、オープンAIの新しい理事会からは効果的利他主義者は一掃されている。NYTによれば、トナーはアルトマンを解任した際、破壊的な道を突き進むくらいなら、オープンAIはつぶれたほうがましだと経営陣に語ったという。そのほうが「全人類の利益」のためにAIを開発するという「本来のミッションにかなっている」というのだ。
トナーの言葉を額面どおりに受け取るなら、彼女の一連の行動は、非営利の研究開発機関としての理念を掲げた「オープンAI憲章」に沿ったものにすぎない。一方で、社内でこれほどアルトマン支持の声が沸き上がったことは、トナーにとって想定外だったかもしれない。