最新記事
生成AI

野心的で、狡猾で、マキャベリスト的? オープンAI「お家騒動」で垣間見えたサム・アルトマンの本性...「効果的利他主義」の顔は見えず

AN AWKWARD RETURN

2023年11月29日(水)18時00分
ニティシュ・パーワ(スレート誌テクノロジー担当)

231205P46_ATM_03.jpg

FLORENCE LOーREUTERS

「全人類の利益」を目指すべきか

21日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)は次の3点を伝えている。その1、「アルトマン氏は理事会に対して常に正直ではない」とサツキバーは感じていた。その2、オープンAIの共同創設者でマイクロソフトの取締役でもあるリード・ホフマンらが今年に入って理事を辞任したことを受け、後任選びで経営陣と理事会がもめていた。その3、アルトマンは理事の1人であるトナーと激しく対立していた。

特に気になるのはその3だ。トナーは根っからの効果的利他主義者として知られる。NYTの報道によれば、アルトマンはトナーが同僚と共に発表した論文について数週間前に彼女に抗議したという。この論文はトナーが現在のフルタイムの勤務先であるジョージタウン大学安全保障・新興技術研究センターのためにまとめたもの。NYTはアルトマンが同僚たちに宛てたメールを根拠に「アルトマン氏はこの論文がAIの安全性確保に対するオープンAIの対策を批判し、今ではその最大のライバル企業となったアンソロピック社の方式を称賛していると解釈して不満に思っていた」と伝えている。

事情通ならお分かりだろうが、アンソロピックはAIの開発方式をめぐりアルトマンと対立したオープンAIの元幹部らが、古巣に対抗して2021年に設立した会社である。

アルトマンにすれば、トナーの論文は自社をおとしめ、ライバルを持ち上げる「有害文書」だ。発表のタイミングも悪かった。オープンAIは今や連邦当局の調査対象となり、チャットGPTの訓練に使用した大量のデータを細かく詮索されている。

トナーは研究者として当然の議論をしただけだと論文を擁護したが、アルトマンは「理事会の一員がわずかでも批判めいた発信をするのは由々しき事態」だと主張。経営陣の1人であるサツキバーはトナーを理事会から追い出すことも考えたが、結局はトナー側に付いた。

というわけで、オープンAIの新しい理事会からは効果的利他主義者は一掃されている。NYTによれば、トナーはアルトマンを解任した際、破壊的な道を突き進むくらいなら、オープンAIはつぶれたほうがましだと経営陣に語ったという。そのほうが「全人類の利益」のためにAIを開発するという「本来のミッションにかなっている」というのだ。

トナーの言葉を額面どおりに受け取るなら、彼女の一連の行動は、非営利の研究開発機関としての理念を掲げた「オープンAI憲章」に沿ったものにすぎない。一方で、社内でこれほどアルトマン支持の声が沸き上がったことは、トナーにとって想定外だったかもしれない。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中