野心的で、狡猾で、マキャベリスト的? オープンAI「お家騒動」で垣間見えたサム・アルトマンの本性...「効果的利他主義」の顔は見えず
AN AWKWARD RETURN
例えば、オープンAIの新しい理事会の顔触れはとても奇妙だ。アルトマンを追放しようとした理事が一掃されたのは分かる。今回の騒動の「首謀者」ともいわれるイスラエルのテック企業のCEOターシャ・マコーリーや、AIポリシーの専門家ヘレン・トナー、そして共同創業者の1人でチーフサイエンティストのイリヤ・サツキバーは、いずれも理事を外れた。
それなのに、Q&Aサイト「クオーラ」のCEOで、追放劇の一端を担ったアダム・ダンジェロは理事にとどまった。さらに新たな理事には、ローレンス・サマーズ元米財務長官のような、間違いなく大物だがテック系とは縁が薄い人物もいる。
AI開発の慎重派vs急進派
新理事会のメンバーが、当面は白人男性で占められることになるのも時代に逆行している。それでもマイクロソフトのナデラ(インド系だ)は、「オープンAIの理事会の刷新」は、「より安定していて、きちんとした情報に基づき決定が下される、有効なガバナンスに向けた第一歩」だとして「心強く思う」と評価する。
だが、今回の騒動は、オープンAIに関する多くの不可解な事実も明らかにした。
アルトマン追放劇の背景には、AI分野で長年くすぶってきたイデオロギー対立がある。論理と数理を駆使して人類の最大の利益を目指す「効果的利他主義」の考えに基づき、AI開発の急速な進展に警鐘を鳴らす人々と、開発のペースを上げなければ革新は訪れないと主張する「効果的加速主義」派の対立だ。
この対立の構図はオープンAIにもまずまず当てはまる。一方には明確に効果的利他主義の立場を取るマコーリーとトナー、彼女たちの危機感に多少なりとも共感するサツキバーとダンジェロがいて、もう一方にはAIユートピアの実現を急ぐアルトマンとブロックマン、彼らに忠実な技術者たちがいる。
メディアは当初アルトマンの解任理由についてさまざまな臆測を伝えたが、理事会と投資家・従業員・経営陣が論争を繰り広げるなか、オープンAIの社内事情が外部にも少しずつ見えてきた。同社の内部では以前から2陣営が水面下でせめぎ合っていたが、チャットGPTの突然の大成功で対立が一気に激化したのだ。