最新記事
生成AI

野心的で、狡猾で、マキャベリスト的? オープンAI「お家騒動」で垣間見えたサム・アルトマンの本性...「効果的利他主義」の顔は見えず

AN AWKWARD RETURN

2023年11月29日(水)18時00分
ニティシュ・パーワ(スレート誌テクノロジー担当)

231205p46_ATM_02.jpg

そろって退社・復帰したアルトマン(右)とブロックマン。一連の騒動はチャットGPTで世界を驚かせたオープンAIが「非営利団体」である意味を改めて突き付ける YONHAP NEWS/AFLO

例えば、オープンAIの新しい理事会の顔触れはとても奇妙だ。アルトマンを追放しようとした理事が一掃されたのは分かる。今回の騒動の「首謀者」ともいわれるイスラエルのテック企業のCEOターシャ・マコーリーや、AIポリシーの専門家ヘレン・トナー、そして共同創業者の1人でチーフサイエンティストのイリヤ・サツキバーは、いずれも理事を外れた。

それなのに、Q&Aサイト「クオーラ」のCEOで、追放劇の一端を担ったアダム・ダンジェロは理事にとどまった。さらに新たな理事には、ローレンス・サマーズ元米財務長官のような、間違いなく大物だがテック系とは縁が薄い人物もいる。

AI開発の慎重派vs急進派

新理事会のメンバーが、当面は白人男性で占められることになるのも時代に逆行している。それでもマイクロソフトのナデラ(インド系だ)は、「オープンAIの理事会の刷新」は、「より安定していて、きちんとした情報に基づき決定が下される、有効なガバナンスに向けた第一歩」だとして「心強く思う」と評価する。

だが、今回の騒動は、オープンAIに関する多くの不可解な事実も明らかにした。

アルトマン追放劇の背景には、AI分野で長年くすぶってきたイデオロギー対立がある。論理と数理を駆使して人類の最大の利益を目指す「効果的利他主義」の考えに基づき、AI開発の急速な進展に警鐘を鳴らす人々と、開発のペースを上げなければ革新は訪れないと主張する「効果的加速主義」派の対立だ。

この対立の構図はオープンAIにもまずまず当てはまる。一方には明確に効果的利他主義の立場を取るマコーリーとトナー、彼女たちの危機感に多少なりとも共感するサツキバーとダンジェロがいて、もう一方にはAIユートピアの実現を急ぐアルトマンとブロックマン、彼らに忠実な技術者たちがいる。

メディアは当初アルトマンの解任理由についてさまざまな臆測を伝えたが、理事会と投資家・従業員・経営陣が論争を繰り広げるなか、オープンAIの社内事情が外部にも少しずつ見えてきた。同社の内部では以前から2陣営が水面下でせめぎ合っていたが、チャットGPTの突然の大成功で対立が一気に激化したのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中