最新記事

ビッグデータ

アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発

THE BATTLE OVER BIG DATA

2022年11月17日(木)15時01分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

「データ保護ナショナリズムは激しくなる一方だ」と、デューク大学のシャーマンは語る。だが規制が行きすぎれば、外国からの投資や経済成長が打撃を受けるだろう。外国にデータを移送するつもりがない企業も「データ保護のためのインフラを整備しなくてはいけない。

弁護士やコンプライアンスの専門家も雇う必要がある」と、シャーマン。「ある顧客について、データやメールを転送するのにも、煩雑な承認プロセスをクリアしなければならなくなる」

新たな多国間協定や、WTO(世界貿易機関)のような国際機関を新たに設けるべきだという声もある。そうすれば、中国が世界からのデータアクセスを遮断した場合、欧米企業が対抗する助けにもなるだろう。

「国境を越えるデータの流れについて拘束力のある原則を定めるための枠組みが必要だ」と、ダートマス大学経営大学院のマシュー・スローター学院長は指摘する。「今はそういうものが全くない」

進むデジタル世界の二極化

多くの国は、こうした枠組みづくりを支持するだろう。19年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で日本の安倍晋三首相(当時)は、「信頼ある自由なデータ流通(DFFT)」を唱えた。

OECD(経済協力開発機構)は既に、政府による監視に歯止めをかけ、法執行機関によるデータアクセスを明記した共通原則を策定中だ。米バイデン政権も、データガバナンスに関する米欧作業部会を設置した。

だが、こうした国際ルールがまとまるまでには数年を要するだろう。それまでの間、アメリカは中国の旺盛なデータ収集活動をどのくらい心配すべきなのか。

一部の中国専門家は、現在の中国のデータ政策は、もっぱら国内を念頭に置いたものだと指摘する。「中国当局は、データに莫大な価値がある一方で、安全保障上の弱点になることに気付いている」と、エール大学のサックスは語る。「現時点では、中国はデータ管理に膨大な力を注いでいる」

だが、長期的な危険を警告する専門家もいる。「中国政府が集めている情報の価値は、一見したところでは分からない」と、ポティンジャーは言う。

「山を見て、ただの山だと言うようなものだ。だがその山は金鉱山でもある。その価値は隠れているが、やがて私たちの安全保障や競争力を脅かすものになり得る」

いずれにせよ、デジタル世界は二極化に向けて着実に進んでいるようだ。「現在のインターネットは2つある」と、米クイーンズ大学のフランク・H・ウー学長は言う。

「グレートファイアウォールに守られた中国のインターネットと、アメリカ主導のインターネットだ。そしてヨーロッパやアフリカや中南米の国々は、どちらかを選ぶよう迫られている」

バイデン政権が今後数カ月にやることは、こうした二極化の回避につながるかもしれない。ただし、その流れを加速する恐れもある。

ニューズウィーク日本版 トランプ関税大戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月15日号(4月8日発売)は「トランプ関税大戦争」特集。同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、青山副社長が辞任 業務時間外の懇親の場で不

ビジネス

アングル:ドル/円に押し寄せる2つの大波、140円

ビジネス

ゴールドマン、米景気後退確率45%に引き上げ 過去

ビジネス

マイクロソフトの合弁会社ウィクレソフト、中国事業を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ使い回しをやめるまで
  • 4
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 5
    フジテレビが中居正広に対し損害賠償を請求すべき理由
  • 6
    ユン韓国大統領がついに罷免、勝利したのは誰なのか?
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中