最新記事

新型コロナウイルス

集団免疫の難しさと、変異株より大きな脅威「免疫消失の可能性」

REACHING HERD IMMUNITY

2021年4月20日(火)16時40分
エド・ブラウン
新型コロナウイルスワクチン

ILLUSTRATION BY IVAN BURCHAK-ISTOCK

<新型コロナの感染拡大を収束に向かわせるのに集団免疫は必要だが、既に1億2000万人がワクチンを接種したアメリカでさえ、その達成時期を予測するのは不可能。果たして感染症はいつ、どのように終わるのか>

アメリカでは、新型コロナウイルスワクチンの接種を少なくとも1回受けた人が1億2000万人を突破した。しかし集団免疫は、いつになれば獲得できるのか。その点はまだ分からない。

集団免疫とは、ある感染症に対する免疫を多くの人が持つことによって、その集団内での感染拡大が抑制される状態をいう。免疫を持つ人の割合が高いほど、感染拡大のペースは落ちる。

感染が収束に向かい始めるのに必要な免疫獲得者の割合を「集団免疫閾値(いきち)」と呼ぶ。その割合はウイルスによって異なるが、新型コロナの場合は60~80%の間とみられている。

集団免疫を獲得する方法には、実際に感染する以外にワクチン接種がある。しかし変異株の出現やワクチンへの信頼の欠如、データ不足といった多くの要因から、現時点では集団免疫の獲得時期を予測することは不可能に近い。

テキサス大学オースティン校のローレン・マイヤーズ教授(統合生物学・データ科学)も、アメリカが集団免疫を獲得できる時期は予測できないと言う。

「集団免疫獲得の阻害要因はいくつかある。ワクチン接種が遅れる地域もあるし、ワクチンが広く入手可能な地域でも接種に消極的な人がいる」と、マイヤーズは言う。

「さらに今後、感染歴やワクチン接種歴のある人でも感染のリスクがある変異株が生まれる可能性もある。多くの割合の人々がワクチン接種を受けないという事態になれば、人口の大半が免疫を持つ状況にならない恐れがある」

「免疫消失」の可能性が怖い

ジョージア大学感染症生態系センターのジョン・ドレーク所長は、アメリカは今夏までに新型コロナの集団免疫閾値に到達するかもしれないと指摘。しかし同時に、集団免疫の獲得は必ずしも感染流行の収束を意味するわけではないと強調した。

ドレークによれば、変異株の広がりはもちろん懸念材料だが、もっと大きな脅威はワクチン接種に消極的な人々の存在や、「免疫消失の可能性」だと言う。

「最近の研究によれば、新型コロナの免疫持続期間は人によって大きく異なるとみられている」と、ドレークは言う。「そのため、感染した後に回復した一部の人が――もしかしたら全ての人が――再び感染する可能性がある」

英オックスフォード大学のジェニファー・ダウド准教授(統計学・公衆衛生学)は、集団免疫の獲得時期を予測するには未知の要素が多過ぎると言う。

ただし「秋の間に子供たちがワクチン接種を受けて、新たな変異株に対応するワクチンの追加接種が実施されれば、来年の年明けまでには状況が大きく変わるだろう」と付け加えた。

「救いと言えるのは、今あるワクチンには新たな変異株による重症化を防ぐ効果もありそうなこと。そして、一度感染した人は次の感染で重症化するリスクが減る可能性が高いとみられることだ。ウイルスが形を変えても、私たちの免疫システムは賢く対応している」と、ダウドは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中