最新記事

海外ノンフィクションの世界

あの『アルマゲドン』で滅亡を避けられる!? 『コンテイジョン』だけじゃない「予言の映画」11選

2021年3月9日(火)21時10分
藤崎百合 ※編集・企画:トランネット

第10章は「最終核戦争」。核分裂と核融合、ゲーム理論、終末時計など。取り上げる映画は『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964年、スタンリー・キューブリック監督)で、核戦争の恐怖をブラックユーモアたっぷりに描写している。

そして第11章。テーマは「死」そのもので、臨死体験、人体冷凍保存、頭脳のアップロードについて解説してくれる。医学生たちが臨死体験に挑む映画『フラットライナーズ』(1990年、ジョエル・シュマッカー監督)をご存じだろうか。

誰だって「死」は怖いし、どうしても目を逸らしたくなる。しかし、「客観的な科学」と「映画」に助けられて死を眺めれば、そこには不思議と色鮮やかで多様な世界が広がっている。

印象的なセンテンスを対訳で読む

●Reminders about death make people reject the pursuit of wealth and fame, and make them focus on the relationships in their lives and becoming a better person.
(死を想起させられると、人は、富や名声を追い求める姿勢を退けて、暮らしのなかの人間関係や、よりよい人間になることを大切に思うようになるのだ)

――著者たちが本書のメインテーマを「死」とした理由。さまざまな科学実験によると、人間は死を考えざるを得ない状況に置かれると、他者に対する振る舞いが改善されるのだという。

●However you might see yourself, to a great white you are scrawny and unappealing, especially when ranked against their blubbery, highly calorific food of choice: seals and sea lions.
(あなたの自己認識がどうであれ、ホホジロザメにとっては、あなたはガリガリに痩せこけていて、ちっともそそられる相手ではない。彼らの食べ物の好みは、脂肪分たっぷりで高カロリーなアザラシやアシカなのだ)

――映画『ジョーズ』のおかげでサメといえば人間を襲うという印象が強いのだが、実際にはそうでもない。サメにとって、人間のように栄養価の低いものを食べるのは時間や胃腸のスペースの無駄遣いになるという。サメが人間を襲ったとしても、見間違いのせいか、好奇心から甘噛みをしているだけらしい。ともかく、サメから見れば人間だれしもスリムだという見解は、なかなかに心安らぐものである。

●Plants have a bizarrely well-developed social life. Down in the soil, the ecosystem around roots is teeming with communication and cooperation. Fungi and bacteria have a symbiotic relationship with the roots - they help the roots absorb water and nutrients, and in return get a steady stream of nutrients for themselves. Everyone's a winner. ...(中略)...fungal threads between tree populations - even between different species - can form a single network.
(植物は奇妙な形ではあるがよく発達した社会生活を送っている。土中にある、根を中心とする生態系は、コミュニケーションと協力関係とで溢れかえっているのだ。菌類や細菌類は根と共生関係にある。根が水や養分を吸収するのを助け、見返りとして自分たちは養分を植物側から安定的に受け取るのだ。誰もが得をしている。(中略)木の個体群のあいだを――異なる樹種のことさえあるが――菌糸がつなぐことによって、1つのネットワークができあがっているのだ)

――木々は水と養分をシェアしている。冬には常緑樹が落葉樹に養分を与え、夏にはお返しとして養分をもらったりする。長老のような木は菌糸の接続が集中したハブ的存在であって、さまざまな情報が集められる。私たちの目には見えないこの協力関係によって、森全体がよりよく機能しているという。「植物」の章では、人間の「知性」の捉え方が非常に偏ったものであることを思い知らされる。

◇ ◇ ◇

本や映画は異世界への扉であり、「死」は究極の異世界である。読後、私たちがよりよい人間になるかどうかはともかくとして、異世界のいろいろな次元を旅してまわり、さまざまな視点にふれることで、現実の生がより豊かで奥行きのあるものになるはずだ。


ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学
 リック・エドワーズ、マイケル・ブルックス 著
 藤崎百合 翻訳
 草思社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
https://www.trannet.co.jp/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中